恐怖!〜戦慄の学校探検〜神門玲と星河紅愛の悲劇 昼間の学校しか見ていないせいだろうか。暗闇の中、静まり返る学校は、まるで別世界。そんな暗闇を、玲と紅愛は歩いていた。 「おい。」 「何よ。」 「鬱陶しい。」 「何がよ。」 「お前がだよ!」 怖いからだろうか。先ほどから、紅愛は玲の腕をつかんでいる。 もうすぐ夏休みのこの7月中旬に、しめきった校舎内でべったりくっつかれると暑い。 「良いじゃないのよ。減るもんじゃないし。」 「そういう問題じゃねー!暑苦しい!」 「うるさいわね、我慢しなさいよ!」 「あぁ!!なんであたしが…」 ―ガラッ… 2人の口論を遮る突然の物音がした。 物音のした方を見ると、教室のドアが開いていた。2、30メートルは先の方。 思わず、玲は紅愛をつかんで、曲がり角に隠れた。そして、2人分の懐中電灯の明かりを消した。 そして、顔を少しだけ覗かせて開いたままのドアを見た。 玲の顔の下から、紅愛も顔を出し、そこに視線を送っていた。 玲の腕をつかむ紅愛の手に力がこもる。 怖いなら、見なきゃいいだろと玲が思っていたその時。 開いたドアから、黒い人影が現れた。 2メートルぐらいはあると思われる長身の人影。 「ひっ…むぐっ」 「ばか、声出すな。」 思わず叫び声をあげそうになった紅愛の口を、玲が手で塞いだ。 「ただの侵入者か、もしくはひつぎのまわしモンだな。」 「会長のって、あんな背の高いのうちの学園にいないわよ。」 「なんか仕掛けがあんだろ。」 2人はひそひそと言葉を交わした。 その間に黒い人影は歩きだして、玲たちがいるのとは反対の方へ歩き出し、廊下の奥へ消えた。 「よし、行くぞ。」 「行くぞって、なんでよりによってあの人影を追うのよ。」 「あっちはあたしらの進むべきルートでもある。」 「はあ、あんたそんなに食券ほしいの?お金くらい持ってんでしょうが!」 「しー!声がでかい。」 「あ、あんたも、顔が近いわよ。」 突然、紅愛の声が大きくなったので、玲が力任せに引き寄せて再度忠告した。紅愛が玲の腕をつかんでいるために、もともと近かった二人の距離がさらに近くなった。この暗闇の中にも関わらず、相手のまつげの一本一本が見分けられるほど近く。暗闇のせいで気づかれなかっただろうが、紅愛の顔がほのかに赤く染まった。 「とにかく行くぞ。見失っちまう。嫌なら一人で帰れよ。」 玲が紅愛の腕をほどいて、歩きだした。 「んな、嫌よ。1人にしないでよ!」 「なら早く来いよ、ったく。しょーがねーな。ほらっ。」 玲が紅愛の手を握って、歩きだした。 「ちょっと何なのよ、いきなり。」 「お前が何なんだよ。さっきは自分から人にくっついてきたくせに。」 「別にあれは…」 「とにかく行くぞ。離すなよ。」 先ほど黒い人影が出てきた扉を、玲が開けようとしたが、鍵がかかっていた。そこは理科室だった。 「おかしいな。」 「え、何。私どこか変?」 「お前じゃねえよ。まあ、ある意味へ…」 「で、何がおかしいのよ。」 「…」 「…」 「鍵かかってるってことは、さっきの奴は鍵持ってたってことだろ。お前も知ってると思うが、鍵の管理は鬱陶しいくらいに厳重だ。てことは、さっきの奴、絶対内部の奴だろ。こりゃさっきの奴は、ひつぎのまわしモンで間違いないなだな。」 「なーんだ。じゃあ、追わなくていいじゃない。ほっといて、ボールとって帰ってくればいいじゃない。」 「ひつぎのこんな馬鹿げたお遊びに付き合う愚か者を突き止める。」 「はあ?」 「こっちからビビらせてやる。」 暗闇の中、黒いオーラを身にまとった玲が低く笑った。 +++ それは、階段のおどり場から見えた。 あの黒い人影。 階段を上ったところの廊下を早歩き程度の速さで、右へと消えて行くのを玲の目が捉えた。 紅愛の手から玲の手が離れたと思ったら、もうその瞬間には玲の体は階段を上りきり、廊下の右、黒い影の消えたほうを向いていた。 しかし、そこで玲の体は止まった。 「あれ。いねーなー。」 「ちょっと、何なのよいきなり。手離すなって言ったのは玲でしょ。」 慌てて階段を上ってきた紅愛が、息を弾ませながら言った。 「ぜってー、今こっちに黒い人影が歩いてったと思うんだが。」 「見間違いじゃない。あのスピードで追っかけてって、もう見えなくなってたんでしょ。あんたの人間離れしたスピードでも捉えられなかったんだから。 とにかく、さっさとやること済ませて、帰るわよ。」 紅愛が玲の袖をつかんで歩きだした。 目指す場所は廊下の先にあった。 「にしても、パソコンルームの鍵って開いてんのか。」 目的の部屋の前に着くと、玲がためらいなくドアに手を伸ばし、扉を開けた。 「お、開いてる。」 「…あんたって度胸あるのね。さっきの奴がいたらどうすんのよ。」 「そしたら捕まえるだけだ。」 パソコンルームは廊下にまして暗かった。 ためしに電気のスイッチを押してみたが、やはりつかなかった。 「で、肝心のボールの在処だが、どうやら、えーっと、暗くて読みにくいな、この部屋のどっかにすぐわかるヒントがあるらしい。 それを参考に探せ、って書いてあるな。」 「あれじゃない。」 紅愛が指差した先には、1つだけ電源のついたパソコンが置かれていた。 電源が付いてはいるが、スリープモードになっているようで、スクリーンは黒かった。 「どれどれ。」 玲が問題のパソコンのマウスに触れた。ウィーンと起動音がした。画面が明るくなり、玲は画面の指示に従い操作をした。カチカチと数回マウスをクリックし、玲は手を止めた。 「ん、なんか動画が再生されたぞ。これがヒントなのか。っていうか、これ何の映像だ?」 「これ、暗いけど、理科室ね。誰かが、カメラで歩きながら撮ってるみたいね。あ、ドア開けた。でも、止まったわね。部屋から出ないのかしら。」 「お、歩きだした。今度はあたしと紅愛が映ったぞ。」 「これ、さっきのじゃない。」 今、この画面に映っているのは、まさにあの理科室前の廊下での玲と紅愛の姿だった。 「…ってことはこれ撮ってたのは、やっぱあのひつぎに協力してる黒い影の奴だな。」 「そうかしら。なんで、会長の手先がこんなビデオを取る必要があるのよ。また画面変わったわね。あ、さっきの階段ね。」 画面の下の方に、映像の撮影時間が表示されていた。 パソコンの時計と比べてみて、5分ほど前の映像になる。 「やっぱさっき踊り場から見えた黒い影は見間違いじゃなかったんだ。お、また画面変わったな。」 「またあたしとあんたね。ていうか、これ、どっからとってたのかしら。」 「どうせ、ひつぎが何か道具貸してんだろ。」 「画面が変わって今度は、ん、この部屋の前ね。ドア開いてるわね。」 玲は、映像の時刻表示を見た。 「なあ、紅愛。」 「なに。」 「お前、ここ入る時、ドア閉めたか?」 「閉めてないわよ。ん、え、何これ。パソコン画面見てる私と玲が、部屋の奥に映ってるけど…この映像の現在時刻って、今じゃない!!」 2人は言葉を失った。 聞こえる音は、パソコンのサーっという回転音だけ。 入口に背を向けている紅愛と玲。 パソコン画面の映像は暗いパソコンルーム内を映す。 「お前、後ろ見る勇気あるか?」 「何言ってんの、あんたが確認しなさいよ。まさか、あんた怖いんじゃないでしょうね。」 「お前に言われたくねえ。」 そんな口論をしてる間にも、映像はどんどん2人に近づいている。 画面の中、その机の角を曲がって、6歩くらい歩けば、確実に自分たちのもとに… 暗闇の中のカメラの映像は不鮮明で、申し分ない不気味さを醸し出している。その映像の中で、徐々に鮮やかになる2人の姿。 暗闇の中に映える、2人の白服。 あと3メートルくらいだろうか。 2メートル… もうあと一歩… すぐうしろ… 「こんのぉ!」 玲が後ろを振り向いた。 紅愛は玲の腕にしがみついて、目をきつく瞑っていた。 「く、紅愛!!お、お前の後ろになんかいるぞっ!!!」 「いやあああああああああああああああ!!!」 紅愛が叫びながら、反射的に後ろを振り向いた。
|
+++つづく+++
2人には何があったんでしょうね?wwwエピローグをお楽しみに。
1つ前: