恐怖!〜戦慄の学校探検〜祈紗枝と上条槙の悲劇 「へえー、じゃあ、お母様はホントすごい人だったのねー。」 「いえいえ、今じゃもう、ただのおばさんですし。」 紗枝と槙は会話も弾みつつ、校舎内を歩いていた。 しかし、これ肝試しなのである。 しばらく進み、美術室の前にきた、その時。 中からゴトリと大きな物音がした。重い何かが落ちたような音。そして、その音が複数回続く。紗枝と槙は窓から懐中電灯で中を照らし、覗いてみた。 「な、なな、なに、あれ!!!??え??」 すると、十数体の石膏像たちがまるで生き物のように動いていた。 それも、かなり激しく。 「そんなに驚かなくても大丈夫よ、上条さん。」 動揺している槙に紗枝が言った。 「ちょ、そんなに動いたら、石膏像壊れちゃうわよ。あれ高いのに。」 「上条さん…そこなのね突っ込みどころは。でも、あれ会長の演出よ。」 「へ?」 「この肝試し、会長が一枚かんでるみたいだから、何かあるとは思ってたけど、バレバレよね。」 「ああ、なるほど。」 「じゃ、先を急ぎましょうか。」 「そうね。鍵がかかってて、中には入れそうにはないし。」 「(上条さん、中に入れたら、どうするつもりなのかしら?石膏像を戻すのかしら。もう暴れちゃダメよ、みたいな感じかしら。あ、美術部の部長だったわね。にしても、思ってた以上に面白い人ね。)」 未だ、ゴトゴトと重い音を響かせながら動き回る石膏像たちが踊る美術室を、あっさりと2人は後にした。 +++ そして、それは突然降り注ぐ。 「あいたっ。」 「ん。」 突然、頭上から何か降ってきた。 さすがに暗闇の中、頭上から突然得体のしれない何かが落ちてくるというのは、気味が悪い。握りこぶし1つか2つくらいの大きさのもの。それほど硬くはないなにかがばらばらと、いくつも降ってきた。 「何かしら。」 紗枝がその何かを掴んで懐中電灯の明かりに照らした。 「こ、これは…たけのこ、かしら。」 「暗闇の中、突然降り注ぐたけのこ。確かに怖いわね。」 槙が足もとのたけのこを懐中電灯で照らしながら言った。 +++ 少し進むと、目の前の廊下は2股に分かれていた。 「えーと、私たちの進むルートは、右ね。上条さんこっち。」 紗枝と槙が右の廊下へと進みだした時、火の玉が3つ、2人を追い越して行った。 「あら、きれいね。」 「えっ?(そういう突っ込み!?火の玉より、よっぽどあなたの方が不思議だわ。)」 さらに進んでいくと、突然誰かが走り抜ける足音が聞こえた。しかし、「はいはい、会長の演出、と。」という紗枝の言葉に一蹴された。 そして、あっさりとチェックポイントの音楽室へと到着した。 防音の施された音楽室の重い扉を開けた。 静かだった。 「静かですね。逆に何も起こらない方が不気味ですね。」 「そうね。さっきの美術室の方がよっぽど賑やかだったわ。」 音楽室全体を懐中電灯で照らしてみた。 「ないですね。ボール。」 「そうね。すぐ見つかると思ったんだけど。」 「どこかに隠されてるんですかね。」 槙はあたりを懐中電灯で照らした。その先に、ベートーベンやバッハの肖像画があった。目がこっちを向くのでは、と槙は期待の眼差しを向けたが、そんなことは起こらなかった。 「あっ。」 何かを思いついたように、紗枝がグランドピアノへと近づいた。 「あ、あったわよ。ボール。このピアノ、屋根が開いてるからおかしいと思ったのよ。」 「そんなところに。割と簡単に手に入るのね。」 グランドピアノの開いた屋根。その中にボールはあった。 紗枝が手を伸ばし、ボールを取ろうとした。しかし、その動きが止まった。 「どうかしましたか、祈さん。」 「うーん。紙が置いてあって、このピアノに近づいたものには、 ピアノの呪いが降りかかるって書いてあるのよ。」 「あら。でも、その紙を置いた人には、呪いが降りかからなかったのかしら。」 「(突っ込みが適切すぎて、面白いわ、上条さん。)まあ、ボール取って帰りましょう。」 紗枝がボールを取ろうと、ピアノに手をかけて、身を乗り出したとき、それは降り注いだ。 祈紗枝は突然、音楽室の床に崩れ落ちた。 「い、祈りさん。大丈夫!」 槙が慌てて駆け寄るも。返事がない。 紗枝に駆け寄ること。それは呪われしピアノに近づくことでもある。 上条槙にも、それは降り注いだ。 そして、紗枝と同様、意識を失い、崩れ落ちた。 音を失った音楽室。 額の中の偉大なる音楽家たちが、その様子を見ていた。 ベートーベンの肖像画。絵であるはずのベートーベンの瞳が動いた。 数回の瞬きをした。その眼は、床に倒れる2人を見つめていた。 +++ 音楽室に再び音が戻るのは、それから約5分後。 ジャッジ隊がストレッチャーを2台持ってやってきた時であった。 <祈紗枝・上条槙 ピアノの呪いが降り注ぎ、2人とも意識喪失のため強制的にリタイア> |