恐怖!〜戦慄の学校探検〜久我順と増田恵の悲劇



 
「はあ…」

増田恵はため息をついた。

「あれー、増田ちゃん。どうしたの、ため息なんてついて。」
「いやー、なんで私、こんなとこに呼ばれたのかなって思って…」
「食券貰えるんだし。ラッキーじゃん。あ、もしかして、増田ちゃん、実は暗いの怖いとか?なーんだ、それなら早く言ってくれればいいのに。いつでもあたしの胸に飛び込んできていいよ、増田ちゃん。」

にやにやと笑いながら順が答えた。

「いや…別にそういうことじゃないんだけど…」

大体、こういう場に呼ばれると、ろくなことが起きそうにない。まして、あの会長が関わってきてるのだし。恵は心配だった。

「えーと、うわー。いきなり4階まで上がるんだね。きついなー。」

順が見た地図の指示では、4階まで上がって、奥にあるトイレに行って、例のボールを持って、帰って来いといあった。
正面玄関を入って一番近いところにある階段から、2人は4階へ登り始めた。
この前のテストはどうだったとか、夏休みはどうするんだとか、最近の夕歩はどうだとか、2人で雑談をしながら、何事もなくチェックポイントである、トイレの前に着いた。

「あの会長のことだから、きっと何か仕掛けてくると思ったんだけどなー。なんもなかったね。」
「これから、何かあるかもよ。だってトイレだし。」

トイレのドアを開けた。
芳香剤の匂いが鼻をついた。

「あ、こんなとこにもうボールあんじゃん。」

ドアを開けてすぐのところに、持ち帰れと言われているボールはあった。
順がそれを拾った。

「何も起こらないね。じゃ、帰ろっか、増田ちゃん。」
「あ、うん。」

あまりのあっけなさ。拍子抜けしてしまうほどだ。
2人は来た道を戻り始めた。




「ホントになんもなかったね。なんか、つまんないな。」

順は不満のため息をついた。

「何もなくてよかったよ。」

一方、恵は安堵のため息をついた。

「増田ちゃん、やっぱ怖かったんでしょ。」
「ち、違うよ。」

チェックポイントのトイレの前の廊下を一番奥まで進んで、角を曲がった。
そこには、階段があるはずだった。

「おー、なんだこれ。」

そこには、白い煙が広がっていた。
床上、大体腰の高さぐらいまで。階段の段がまるで見えない。

「増田ちゃん、転ばないように足元気をつけてね。」

順はさくさくと、白い靄の中、階段を降りはじめた。

「ん。どうしたの増田ちゃん。」

恵は未だ、階段の上で立ち止まっていた。
恵の下半身もすっかり、白い煙に覆われていた。

「いや、何ていうか、嫌な予感がするというか…」

ただ足元が見えないというだけ。
だが、しかし、本当にこれだけで済むだろうか。
もっと、何か大変な何かが起こるのではないか、恵にはそんな予感がしていた。

「大丈夫だよ。なんかあったら、助けてあげるから。ほら、早くしないとおいてっちゃうよ。」

確かにこの人なら、自分に何かあったら助けてくれそうだけど。
順の言葉に促され、恵は歩き出そうとした。
しかし、この時、とっくに悲劇は恵を捕えていた。




「久我さん。」

既に順は踊り場まで下りていた。

「ん。」

呼ばれて振り返ると、恵はまだ階段の上にいた。
階段に広がる靄が、ただでさえ暗くて悪くなった視界を、余計悪くする。

「もー、増田ちゃんたら、怖いならそう言ってくれれば、良いのに。」

順がへらへらと笑いながら恵のところまで戻ってきた。
そして、恵の手を握って、歩きだした。が、それでも恵の体は進まない。

「増田ちゃん?」

順は恵の顔を覗き込んだ。よく見れば、ひどく顔色が悪い。

「なんか、…誰かに足をつかまれてて、歩けない…」

まさかとは思ったが、恵が嘘をついているようには思えない。
順はボールを左手で抱え、右手を恵の腰にまわして、その体を抱えようとした。
しかし、全く恵の体は動かない。
別に、恵が重いということではない。

「マジ?」

順は困った。
恵の足元を懐中電灯で照らしてみたが、霧のような煙りのようなそれが濃くて、全く足元を確認できない。
試しに、恵の足元のあたりを踏んでみたが、誰かがいるというような感触はない。

「ん、誰もいないよ。」

その時、順が左腕で抱えていたバレーボールが、腕から抜けて行った。
まるで、バレーボールが自らの意思でそうしたように。生き物のように、飛んで行った。

「あーー、食券!」

食券ではない。バレーボールである。
食券もといバレーボールの跳ねる音が階段の下の方へ遠ざかっていく。
バレーボールを追いかけようとした順だが、右腕を恵につかまれた。


ううっ…


食券か増田恵か。順の心は揺れる。

「わああー、久我さん、置いていかないで!!」

胸元にすがりついて、今にも泣きそうな潤んだ目で、自分を見上げる増田恵に迫られた淫魔久我順。
順の心の天秤は振り切れた。

「大丈夫!こんなかわいい…じゃなくって、緊急事態の増田ちゃんを置いていかないから。」

やばー、増田ちゃんかわいすぎるよ。浮気しそう。

「はっ、こんなこと考えてる場合じゃない。増田ちゃん、今助けるかんね。」

順は正面から恵の体を両腕で抱きかかえて引っ張った。

「むむー、ねえ、増田ちゃん。あたしが増田ちゃんのこと助けられたら、そのままお持ち帰りしてもいい?」
「全然良いよ。早く持って帰って!」

どさくさにまぎれて、お持ち帰り発言をした順であるが、緊急事態の恵にその冗談をかわす余裕などない。

「よっしゃあ!順ちゃん頑張っちゃうよー。うおどりゃあ!」

渾身の力をこめて恵を引っ張った。
しかし、その瞬間、なぜか恵の足をつかんでいた何かは消えていた。
順の気合いの入った一撃に対抗する力がなくなっていたわけで、それに順は気づいておらず、恵の体は人間大砲のごとく階段に投げ出された。
足をつかまれていた感覚がなくなり、恵が、あっと思った時には、時すでに遅し。
体は宙を舞っていた。

「あっ。」

自分の両腕から恵が飛んで行くのに気づいた順。

「わあああ―ガン―ああぁぁぁ―ガンッゴロゴロ―ぁぁぁーー……―ガガン―……」

恵の叫び声と、それに混ざって、おそらく体が壁にぶつかったのだろうと思われる音が響いた。

「はわぁーー!ま、増田ちゃーん!」
「……」




ど、ど、どうしよう。思いっきり増田ちゃんのこと投げちゃったよ。
しかも、返事ないし。
順は焦って階段を下りた。
しかし、白い煙が腰より下を覆ってしまっていて、恵を探すのも容易ではない。
とりあえず、正面玄関まで戻るか。
いや、すぐ近くにいるかもしれない増田ちゃんを放って、この場所を離れるのは危険では。
増田ちゃんの足をつかんでいたと思われるなにかの存在も気になるし。

「しょうがないか。どのみちボールもどっか行っちゃってるし。よし。」

順は緊急通報装置のボタンを押した。

「こちらジャッジ隊。……」


<久我順・増田恵  増田恵の安否不明のため、緊急通報装置を使用しリタイア>


+++つづく+++


消えた増田。けーちゃんはこういうポジションだと思う。体を張った受け担当。
ちなみに、順と恵ちゃんの共通の話題の中に、
夕歩のことが混ざっているのは、仕様ですww
次回、感動の最終回!ww

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つづき:リーダーは見た!おバカキャラ達の悲劇へ

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