恐怖!〜戦慄の学校探検〜エピローグ
リーダーは見た!オバケの悲劇




それは夏のある日。
期末テストも終わり、夏休みまであと少しという日の昼休みのことだった。
雉宮乙葉、猿楽未知、吉備桃香、犬神五十鈴の4人はバレーボールをしていた。

「おわっ、どこに上げとんじゃあ、キジ! 」
「何をいうかね。キミのレシーブの失敗を私のせいにしないでくれよ。キミの反射神経が悪いだけでしょ。」
「くっ…」

桃香は転がって行ったボールを拾った。

「ほんじゃあ、キジ。アンタはさぞかし反射神経良いんじゃろうな。こんの、くらえっ、キジ公!」

桃香の渾身のスパイクが乙葉に向かってくる。

「どわぁっ!」

反射的に振り上げた手が、桃香のスパイクを打ち返してしまい、豪速球が桃香へと飛んで行った。

「ぶっ!」

まさかボールが返ってくるとは思ってなかった桃香は、ボールを避けられず、顔面に食らった。

「桃香さん!」

ガッシャーーーン!!!

「……」

桃香の顔面に当たったボールは、大きくはね返ったその先で窓ガラスを破壊した。





+++
「…というわけです。」
「なるほど。まあ、怪我人が出なかったのが幸いね。ここは、学校。窓ガラスが割れるなど、よくあること。問題は、ボールで遊んではいけない場所で、バレーボールをしてガラスを割ったこと。」
「はあ、すんません。」

デスクに座った会長を前に4人は謝罪するのみ。

「しかも、あなた達が壊したあのガラスは見て分かると思うけど、ステンドグラスで値段も結構するのよ。」
「うっ…」
「でも、弁償しなくていいわ。」
「え?」
「そのかわりに、…そうね。夏だし、肝試しでもやりなさい。もうテストも終わっているのだし、こういうお遊びもいいでしょう。」

生徒会長天地ひつぎの唐突な発言に、吉備桃香、絹神五十鈴、猿楽未知、雉宮乙葉の4人は唖然とした。

「いいでしょうって、会長サン。そがいなことゆわれても、どがーしたら…」
「あなた達はオバケ役をやりなさい。」
「わー、楽しそー!」
「えっ!未知…マジで?」

会長の提案に乗り気の猿楽未知と引き気味の雉宮乙葉。

「ん、キジっちゃん嫌なの?こんな楽しそうなことを、せっかく会長が提案してくれてるのに。ね、わんわん。」
「そうですね。楽しみですねー。」
「え、犬神サン、わくわくしすぎでしょ!ちょっと、桃サン。君はさすがに…」

一縷の望みをかけて、反対派雉宮乙葉は桃香を顧みた。

「ふふふ、これは楽しそーじゃのー。」
「えぇ、既にやる気満々!?」
「良いじゃん。やろーよキジっちゃん。これで、ガラス壊したのチャラになるって言うんだし。」
「うっ。」

高額の弁償をせずに済むという条件のもとで、乙葉の気持ちは揺れた。
だが、すぐに心は決められた。

「分かったよ。」

そもそも、会長の提案。逆らえるはずもなかった。






+++
どうも。ジャッジ隊リーダーです。
ようやく全部のペアが戻ってきました。
ここで少し、肝試し大会を振り返ってみましょう。
まずは、肝試し開始前のことから。





日も沈み、あたりはすっかり暗くなった頃。

「さあ、そろそろ参加者たちが来るわ。では、おバカの皆さん、頑張って頂戴。」

おバカじゃなくてオバケです、会長。
猿楽、雉宮、吉備、犬神のおバカ…お化けキャラの皆さんが、校舎内に入って行きました。
参加者を驚かすのに使うらしい、たくさんの道具を持って。
それから少しして、参加者の皆さんが集まり、肝試しは始まりました。




+++
仮設テント内には、私と会長、ほか数名のジャッジが待機していました。
私と会長で、モニターをチェックしていました。
もっとも、会長は楽しむためにでしょうけど。

1番最初のリタイアは、宮本・黒鉄組でした。
2人の持っていた懐中電灯の明かりが消えて、黒鉄さんがさんざん騒いで、
宮本さんが転んで気絶して、リタイア。
まあ、からくりは懐中電灯にあるわけです。
私は見ていました。ちょうど私たちジャッジが、機材の準備をしている時、
猿楽さんが2人分の懐中電灯の電池をすり替えているのを。
そういうことだったんですね。



次のリタイアは、月島・染谷組でした。
悲劇は月島さんが、なぜか廊下に置いてある食べ物につられて、コースを外れるところから始まります。
私は見ていました。校舎に入って聞く時、雉宮さんが串カツやらバナナやら大量の食糧を抱えていたのを。
あれは罠としてのものだったんですね。

それにしても、あれは面白かったですね。
会長と一緒になって、笑ってしまいましたよ。
バナナでこける人ってホントにいたんですね。
月島さんはストレッチャーでテントに運ばれて、少ししてから目を覚ましました。
目を覚ましてから、トマトがまだ食べかけだったとかなんとか騒いでいました。



次のリタイアは神門・星河組でした。
出発した順にリタイアしていますね。
オバケキャラが頑張っているようです。
神門・星河組が見た長身の黒い影。
あれ、実は吉備さんが犬神さんを肩車していただけなんです。
上から黒いマントを羽織っていただけなんです。

で、神門・星河組の様子がカメラで撮られていましたが、校舎内に設置されたカメラと、吉備・犬神組に取り付けられたカメラの映像なんです。
それを、帯刀さんがうまく編集していただけなんです。
星奪りの運営側として、帯刀さんのことはよく知ってますが、あの人は結構すごい人なんですよ。
未だに、学園の生徒なのかどうかも、よくわかりませんが。

最終的に、神門・星河組はパソコンルームでリタイアしますが、
あれは肩車でゆらりと現れた犬神サンに驚いただけなんです。
確かに、あの子には、鬼気迫るものが漂っていることがたまにありますけど、まさかSランカーのあの2人があんなに驚くとは思いませんでした。
会長と一緒に、これまた大笑いしてしまいました。
神門・星河組は戻ってきてから、どっちが先に緊急通報装置のボタンを押したかで、言い争っていました。
実は、神門さんの方が早かったのですが、それは黙ってました。



さて、次は祈・上条組。
まず、美術室で石膏像が踊っていた不思議について。
あれは、猿楽さんと雉宮さんが、手品に使うような特殊な糸で引っ張っていただけなんです。

それと、降り注ぐたけのこ。猿楽さんの実家の
火の玉が途中で通過していきますが、あれは雉宮さんの力によるものみたいです。
彼女は何者なんでしょうかね。

そして、ピアノの呪いについて。
あれは、雉宮さんがクロロホルムを霧吹きで天井から注いでいたのです。
それとベートーベンの絵の裏に、猿楽さんが入っていたのも知ってます。
目の部分に穴が開いていたんです。
後から聞いた話ですけど、ベートーベンに扮した猿楽さんは、何かを期待するような熱いまなざしで自分を見つめる上条さんの視線に戸惑った、とのことです。



次は、無道さんと静馬さんの悲劇について。
動く人体模型ですが、あれは吉備さんが中に入っていたのです。
確か、胸のところ辺りに覗き穴がついていたと思います。
首の方が瞬きをしますが、あれは元々会長の趣味で、そういう機能が付いていました。
私の記憶が確かなら、あれには他にも、笑うとかいった表情の操作もできたと思います。

それと、引き返す無道・静馬ペアが謎の迷路にはまりますが、あれは犬神さんの108の呪い技の一つだそうです。



さて、最後に久我・増田組について。
階段で謎の白い煙が出てきますが、あれはドライアイスの煙を、犬神さんが増幅したものです。
で、足をつかまれたという増田さんですが、あれも犬神さんの仕業です。
確か108の呪い技、地獄縛り足だけバージョンとか言ってました。

ちなみに、途中で犬神さんの技が解けますが、あれはドライアイスの煙が充満していて寒かったようで、犬神さんがくしゃみをしたためです。
その一瞬に、久我さんが増田さんを思い切り持ち上げたために、増田さんが人間ロケットになったわけですが。
会長じゃありませんけど、ホントに剣待生は面白いですね。
増田さんですが、その後無事…実際無事ではないのですが、発見されました。頭を強く打って気絶していました。
他にも色々な所を打撲してました。
ある意味、今回一番かわいそうな人だったと思います。





+++
と、こんな感じで肝試しでした。

「さて、肝試し大会ですが、リタイア及び失格により、誰一人として食券を手に入れられなかったわね。しかし、これはこれで大変楽しめたので良しとします。では、解散!!」

会長の相変わらずの大音声。肝試しは終わりました。
しかし、私たちジャッジ隊には多くの仕事が残されています。
一番の問題は、負傷者のことです。



まず、祈さんと上条さん。この2人は未だに目を覚ましません。
ただ眠っているだけなのですが。

「どうしましょうリーダー。医務室の方に寝かしておきますか?」
「うーん。」

私は判断に困りました。

「紗枝なら刃友なんだから、玲が部屋まで運んで寝かせてあげたらいいじゃない。」

私が悩んでいると、星河さんがそう提案しました。

「な、なんでだよ。あたしの部屋にベッドは1つしかねーよ。」
「誰があんたの部屋に寝かしなさいって言ったのよ。紗枝の部屋に決まってんでしょ。ったく。何考えてんだか。」
「ち、ちげーよ!」

あら、そういう関係なんですか、神門さん。
結局、なにかぶつぶつ言いながらも、神門さんが引き受けてくれました。

「もう1人の方は、うちのに運ばせてくわ。みのりー。」
「んー、なに紅愛。」

星河さんが月島さんを呼ぶと、白服をトマトで汚した月島さんがやってきました。思わず笑いそうになってしましましたよ。
月島さんは星河さんの指示通り、上条さんを抱えて、寮へと歩き出しました。上条さんの問題も解決しました。



宮本さんですが、意識はありますが脳しんとうを起こしていたので、心配でした。

「歩けますか。」
「ええ大丈夫。」

そうは言ったものの、立ち上がった宮本さんは少しふらついていました。

「静久。無理をしなくていいのよ。わたくしが運んでいくわ。ジャッジの片づけが終わるまでここにいるつもりだから、もう少し座って休んでなさい。」
「あ、別に私たちは大丈夫ですから。もう帰られて構いませんよ、会長。」
「そう。…じゃあ、悪いけれど、お先に失礼するわ。」

こちらも問題解決です。



さて、増田さんはどうしたものでしょう。
未だに意識が戻っていません。あれだけ壁にぶつかって階段を転がれば、当然なのかもしれません。
体に至るところを打撲してますし、脳しんとうの方もひどいようなので、医務室に運ぶことになりました。



あと、問題は中3のあの4人ですかね。
静馬さんと無道さんと久我さんと染谷さん。あの4人はどういう関係なのでしょうか。
リーダーすごい気になります。
今、久我さんが無道さんに何やら話しかけています。

「ごめん綾那。うちの子が迷惑かけちゃって。」
「別に迷惑じゃないし。」
「ま、とりあえず、背中の荷物、あたしが引き取るわ。」
「やだ。綾那が良い。」
「がーーーん!!順ちゃんショック。刃友にふられたわ。」
「順に抱えられるとか、かえって危険だし。」
「じゃ、私は夕歩を部屋に送ってくわ。」

無道さんが、落ち込む久我さんをスルーして、寮の方へ帰って行きました。



そして、久我さんが、突然何かをひらめいたように、染谷さんに近づいていきました。

「順、なに?」
「染谷。もう暗いからねー。夜道は一人じゃ危険だよ。送ってってあげるから、ねっ。」

久我さんは染谷さんに手を差し出しました。

「なに、その手は。だいたい、あなたと一緒に帰ることの方がよっぽど危険よ。綾那に夕歩を取られて寂しいって正直に言ったらどう。」
「まあ、綾那に夕歩を取られたっていうか、夕歩に綾那を取られたっていうか、とにかく寂しいわけよ。で、綾那を取られて染谷も寂しいんじゃないかなーって思って。」

ほほう、リーダー、事情読めてきたよ。

「あなたと一緒にしないでよね。」
「それに、綾那戻ってこないかもだし。」

ん?

「は?」
「だからね、染谷。あたしの部屋に来る?優しくしてあげるよ。」
「結構よ。じゃあね。」
「あー、染谷待ってよー。寮ぐらいまで一緒に帰ろうよ。」

染谷さんは、冷たく言い放って、寮に戻っていきました。
久我さんが、染谷さんを追って寮の方へ走って行きました。



「リーダー。片付け終わりました。」
「ああ、お疲れ様。校舎の方の戸締りも大丈夫かしら。」
「はい。」
「じゃあ戻りましょ。」


もうすぐ夏休みです。


END


ついに、夏企画の連載ものが、肝試しが終わりました。
順の「それに綾那戻ってこないかもだし。」の発言の理由について。
なんでかって言うと…
@増田ちゃんもいなくて、部屋に1人切りになるのが怖い夕歩が
綾那を引き留めるだろうから。
A夕歩と綾那はそういう関係なんだよ。
というのが考えられますね。
いずれにせよ、綾那がおいしいですね。


1つ前: 久我順と増田恵の悲劇へ

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