真夜中の計画―3―  




神経が覚醒する感覚だった。
例えばそう、順の唇の感触、制服越しに順の手が背中をつかむ感触に。
今までの自分になかった新しい感覚の拓かれた瞬間だった。
それこそ、あのままドア際で順を押し倒していたかもしれない。
けれど、剣待生の性なのか、床に落ちた刀の無機質な音に我に返った。

「じゃあさ、さっきの続きを…」
「やらん。」

普段の順ならあの言葉は冗談なわけだが、今は洒落にならない。
正面から否定しておかなければならない。

「分かりましたー…」

意外にも順はあっけなく引き下がった。
順は床に投げ出された二本の刀を拾って立ち上がった。
綾那は安堵のため息をついてから、窓の外を見た。
今続きなんてやったら、多分自分の方がおかしくなる。
そのおかしくなった自分が順に何をしてしまうか分からないから、自らを戒めた。


…はずなのに


明かりが落とされた。
闇が満月の光を部屋に誘った。
パサリと何かが床に落ちる音がして、順の足音が徐々に近くなり、綾那の背後で止まった。

「…ってあたしが言うと思った?」

順の方を見ないようにしていたのが、あだになった。
順の白い両腕が綾那を抱いた。
綾那が肩越しに後ろを見やれば、肩まで白い。

「ここで終わるなんて、嫌よ。」

順のことばの響きは切実だった。
綾那は大きく息を吐いた。

「そんな焦ることないのに。」

満月の月の光が、いよいよ綾那をその気にさせた。
綾那は振り返って順の体を抱えて床に座り込んだ。
順の前髪を掻き上げて、額にキスをした。
それから、今度は唇にキスをした。
順の唇が薄く開いて、舌を綾那の口内に忍び込ませたと思ったら、自分から綾那の舌に絡ませるのだからやはりこの人は淫魔かもしれない。
舌先の溶けるような気がした。
角度を変えてお互いの口内を犯した。

「ん、ふ…」

お互いの口から声が漏れた。
その声に交じって粘膜にまとわりつく水音がする。
角度を変えてお互いの口内を犯す行為がようやく止まる。

「っ、ふ…ぁ…」

名残惜しそうに順が声とも息ともつかぬ、おそらく声を出した。
間髪いれずに綾那は順の首筋にキスを落とした。

「あ…っ」

綾那は順の首筋を強く吸いながら、その手で順の胸に触れた。

「ん、ぁ…」

その手は「やればできるじゃん」、と順に思わせるくらいこれまでにない優しさで順に触れた。
首筋に落とされていたキスが徐々に下りてきて、胸元に赤い後を作ってから、綾那の舌が順の胸の先端を舐めた。

「ひっ、…ぁ」

たまらず順は綾那の制服の襟を強く握った。
もう一度綾那はゆっくりと舌を這わせた。

「ぅあ、…っ」

先ほど舌をからませた時もそうだが、ゆっくりねっとりと絡みつくような綾那の舌の動きに、体の自由を奪う快感が走る。
相手が綾那だからかもしれない。
そんなことを思っていると、綾那の唇が順の胸の先を強く吸った。

「っあ、…ぁ」

強く吸いながら、その舌先が先端を弄ぶ。

「ん、ふ…ぁ」

快感に順は身を捩った。
綾那の手がそれを押さえるように順の体の両脇に触れた。

「っ、…や…」

そこは弱いのでできれば触れられたくない。
自分の体の両脇をつかむ綾那の腕を順がつかんだ。
それに抗うように、綾那の両手が順の体の両脇を擦り上げた。

「っぁ、あっ…ちょ、あや…な」

綾那の唇が離れたかと思ったら、今度は先端を甘く噛まれた。

「っ!や、…だめ…」

反対の胸の先端は指でつまみ上げた。

「や、ぁ…!」

順の胸から綾那の唾液が伝って行った。
順は下半身が疼くのを感じた。

「あたし、ヤバい…かも…これだけで、イキそ…」
「淫魔が何を言う」

順は綾那の体に腰を擦り寄せた。
ふと綾那は太股の辺りが濡れているのを感じた。
見れば、制服のスカートの上に黒いしみができているのが仄暗い月明かりに光っていた。
どうやら伸ばした足の上に座らせた順から溢れたものであるようだ。

「やっぱりお前は淫魔だよ」

綾那はわざと順の耳元で卑猥に囁いた。
言われていることの意味が分かっている順は、羞恥心に駆られた。
耳元で囁いたついでに綾那は順の耳を舐めた。

「ぁん…っ」

綾那の舌がねっとりと滑る感覚とその音に瞬間的に聴覚が奪われた。
綾那は順の濡れたそこに触れた。

「っ!あっ…っ…!」

綾那に抱きつく順の腕に力がこもる。
正直、本当に今にでも達してしまいそうだった。

「ぁ、はっ…ダメ、も…あたし…」

敏感になりすぎて、月明かりさえ眩しい。
綾那がこんなに器用に攻めてくるとは思わなかった。
そして何より、自分がこんなに感じてしまうことが意外だった。

「んっ…あ」

綾那の触れたそこはひどく濡れていた。
そこの入り口をゆっくりと指先で撫でた。

「ひっ、や…あっ…ぁ」

ひくひくとそこが快感に蠢くのを指先で感じた。
その液体は綾那の指先を濡らして行く。
一体、中はどれほどだろう。

「あっ…っ」

喘ぎ声が徐々に掠れ始めてきた。
これは本当に限界なのかもしれない。
快感のせいか、順の目は涙を湛えていた。

「順…」

綾那は順の胸元に唇を寄せた。
綾那の髪が肌に触れる感覚も、いちいち順の体を震わせる。
快感に濡れるそこを、ゆっくりと撫でる綾那の指の感覚に順の腰はゆるゆると不規則に揺れた。

「だ…め、あや…なぁ…」

だが、順が綾那の名前を喘ぎ声交じりに甘ったるく呼んだのに気を良くして、綾那はその中へ予告なしに指をゆっくり入れた。
ダメだって、言ったのに。

「っ!…」

息が詰まる。
綾那の指はゆっくりと奥深くへ。
綾那はまだまだこれからなんて顔をしてるのに。

「っ…ごめ…ん、ぁっ、あや、な…」

悲痛な順の声が、欲望の中の綾那の優しさを煌めかせる。

「我慢なんてしなくて良い」

聴覚の麻痺しかける順の耳に、綾那の優しい囁きは身を揺るがすが如く響く。
順は淡い月明かりに、閃光にも似た眩しさを見た。

「!!んあぁっ…!」

快感が全身を貫いた。
びくんと大きく順の腰が揺れる。

「ぅあ…ぁっ!」

綾那の体にしがみついて、順は声をあげた。
どうしようもないくらい愛おしさを呼び起こすその声の響きに、なんだか胸が苦しくなるほどだった。
声が止んでから、綾那は順の中に入れた指を抜いた。
順の肩が小さく跳ねて、
「っん…」
と声を漏らした。

「意外に早かったな。」
「綾那の、せいでしょ…主に…」
「ああ、それはよかった。」

綾那はつらそうに呼吸する順の体を自分の体に寄り掛からせた。

「ひ、ぁ…ボタンが、冷たい…」

順が一糸纏わぬ姿であるのに対し綾那は制服を着ていたから、制服のボタンが順の体に直に触れた。

「あぁ、ごめん…」

綾那は順の体を起こそうとしたが、順がそれに抗して綾那にもたれた。

「このままがいい…」

今なお熱をもった吐息の合間にそんな言葉を言われたものだから、綾那の方が赤くなってしまった。

「そうだな、私もこのままがいい…」
「ん、よかった…」

そう呟いた順が物凄く大切に思えた。
両腕で順の体を抱きよせた。
今の順を見ていたら満足してしまって、早かったからもう一回なんて言う気は消えて行った。

順の呼吸が落ちついてきたと思ったら、突然
「やっぱベッドで一緒に寝よ。」
と言いだした。
汗その他体液でべとべとの綾那の制服を順が引っ張りながら。

「綾那が風邪ひくのはヤダ。」

だるそうに体を起こしながら、順がつぶやいた言葉が嬉しくて、でもその嬉しさを、誰かの優しい言葉に心救われるような感覚を言葉にできない。
とりあえず、綾那は順の髪を撫でた。
こんな気持ちをありのままに表現しうる言葉があったらいいのに。


綾那が服を脱いでベッドに入る頃には、順はもう寝息を立てていた。
順の白い背中の上にそれより白い月の光が落ちていた。
月の光に触れたかったのか順の背中に触れたかったのか、あるいは両方か。
綾那の手が順の背中に触れた。
冷たいはずの月の光さえ温かく感じられた。
綾那は順の背中に体を寄せて横になった。
愛しい人の背中の上で光と共にとけて行ける気がした。



END


じゅんじゅんにはこれくらいの長さをかけて、夕歩をかわいがってもらいたいものです。
設定としては、夕歩が退院して少したって、久我家に泊まりに来ましたな感じです。


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