ascend attend analysis
彼女にとっては遠くから、ただ見つめていられるだけで幸せで。
だから、知らなければそれで済んだ。
満足の先にあるもの。
少し離れたところから、その目に久を映して、それで幸せでいられた福路美穂子の安息の日々を壊したのは、皮肉にも竹井久その人。
遠くから。
そう、あくまで遠くから見つめていたのに。
気付いて欲しかったわけじゃないのに。
気付かれてしまう。
目が合うといつも久は美穂子に微笑んだ。
どうしていいか分からない美穂子はその度に目をそらした。
見つめていたのは、見つめていたいのは自分の方なのに。
そんなことをぼんやり考えながら、また美穂子が久を見つめていたら、目が合った。
どうしても耐えらえず目をそらす。
「美穂子。」
そらした視線を引き戻す、声がした。
―――――なんだ、ちゃんと名前…覚えてるじゃないですか。
久は笑顔で美穂子に近づいていった。
久のスカートの裾が美穂子の足をかすめる距離まで来たところで、ようやく止まった。
「あ、あの…」
「んー?」
完全なるパーソナルスペースの侵略。
美穂子は顔をそむけた。
「ち、近いです…」
「うん。」
「うん、って…」
「あなたがいつも私のこと見てるみたいだから…」
久の手が美穂子の顔に触れ、自分の方を向かせた。
「あなたの視界中に私を映してあげようかと思って。」
「…っ!」
美穂子の視界が久で満たされる。
彼女にとっては遠くから、ただ見つめていられるだけで幸せで。
だから、知らなければそれで済んだ。
満足の先にあるもの。
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