眠る君の横顔 放課後、ゆかりと槙は桜の木の下で絵を描いていた。 時折吹く風に、桜の花が柔らかに揺れる。暖かな日差しが降り注ぐ。 が、しかし。 「あーやーなー、もっと二人の放課後を楽しもうよ。」 「だー、うっさい。私は眠いんだ。さっさと寮に帰って寝たいんだ。ていうか、なんであんたは私の肩に乗るんだ、うっとうしい。」 のどかな空気が突然台無しである。 はやてと綾那の叫び声が、だんだん近づく。 「まったく、あの2人。」 ゆかりはため息交じりにつぶやいた。 「あー、ゆかりと先輩さんだ。ねー、綾那。ゆかりだよゆかり。」 綾那の肩に乗ったままのはやてが、綾那の頭をゆすりながら大声でいった。 「あっ…」 こんなところを見られるなんて。 綾那がそんなことを思っていると、はやてが突然肩から降りて、ゆかりと槙のところに走って行った。 「ほぁー、ゆかりと先輩さんて絵、すごい上手なんだね。」 イーゼルに掛けられた2人の絵を見て、はやてが言った。 「ふふ、ありがと。」 槙は優しく微笑んでそう言った。 「ふう、少し休憩しましょうか、ゆかり。なにか飲みもの買ってくるわね。黒鉄さんも一緒に来る?」 「うん。行く行く。」 「じゃあ2人はちょっと待っててね。」 そういって、槙とはやてはいってしまった。 +++ どうしよう。ゆかりと2人になっちゃったよ。 きっと槙さんはわざとクロをつれて、私たちを2人にしたのだろう。 「そんなところに立ってないで、座ったら。」 「あ、うん。」 私はゆかりの隣に腰をおろした。ゆかりは絵を描く手を止めない。 ゆかりの描く絵は、やっぱり上手だった。 久しぶりに、ゆかりの描いた絵を見た気がする。 まともに口をきかずにいる間、自分の知らないところでもいろいろなものが変わった。 ゆかりの絵を見ながら、そんなことを思っていたら、不意にゆかりの手が止まった。 ゆかりが私の顔を見ていた。 なんとなくきまりが悪くて、目をそらしてしまった。 「綾那、絵に興味あったの?」 「え、いや、絵に興味があるというか、ゆかりに興味があるというか…」 「はぁ?」 「いや、ゆかりは相変わらず絵がうまいなと思って。」 「あぁ、そう。」 ゆかりは淡白に答えた。 「眠いの?」 寝不足なのと、春の陽気のせいで、あくびが出てしまったら、ゆかりが聞いてきた。 「うん、寝不足で。」 実際のところかなり眠い。 「なら、少し寝てたら。あの2人が戻ってくるときには、あなたの刃友がいろいろ騒いで眼も覚めるでしょうから。」 「うん。」 もう、駄目だ…眠い…… +++ それから数分と経たぬうちに、綾那が私に寄りかかってきた。 「ちょっと、綾那。」 私の肩に頭をおく綾那を見ると、目を瞑って寝息を立てていた。 寝てる。 ホントに眠かったんだ。 私は筆を水入れの中に入れた。 風が、桜の花を揺らす。 ふと、私の肩に持たれる綾那の体の重さが増した。 そして、綾那の頭は私の肩から膝へと滑り落ちた。 起こそうかと思った。 でも、自分の膝の上で眠る綾那の横顔を見たら、そんな気持ちは消えてしまった。 裏では、怒れる天地の虎などと言われている彼女も、 寝顔はこんなにもかわいらしくて。 彼女からメガネを奪い、そっと頭をなでた。 風が、綾那の前髪を揺らす。 +++ わざわざ遠回りをしてジュースを買いに行ったのだから、あの2人がそれなりの会話を交わす時間はあったと思うのよね。 「ねぇ、黒鉄さんはゆかりのこと、どう思う。」 「んー、ゆかりは綾那のこと大好きだと思う。」 「そうでしょうね、私もそう思う。」 「でもゆかりは先輩さんのことも大好きだと思う。」 うっ。この子は…やり手ってことはないでしょうから、ただアレなだけね。 「ふふ、そうだとうれしいわ。」 「およ?先輩さん、こっち。」 黒鉄さんに突然腕を引っ張られて、草むらの中に2人して隠れた。 「ん、どうしたの?」 「あれあれ、見てくださいよ。」 黒鉄さんの指差した先には、ゆかりの膝枕で眠る無道さんの姿があった。 無道さん、寝顔可愛いわね。ゆかりもあんな嬉しそうな顔しちゃって。 「ほほ〜、らぶらぶですなぁ〜、あの2人。」 「ふふふ、よかったわ。」 ここまでの結果が得られるとは。あの2人が会話をする機会を作ってあげるぐらいのことしか考えてなかったけれど。 よかったわね、2人とも。 |
END
ゆかりは表向きはああだけど、実は綾那大好き。
で、それがしっかり分かってる槙先輩がナイスアシスト!
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