やっぱり、痛い。 午後の授業が始まってすぐに、鐘が鳴った。その星奪りの最中、未知は足をひねった。それでも星はとれたけど。なんとか歩けるので、大丈夫かと思っていたが、授業中もずっと痛かった。 もう少しだけ ホームルームも終わり、早く寮に戻ろうと思ったが、未知の足の痛みは増しており、足を引きずりながら教室を出た。 「キミね、怪我したのなら、ちゃんと言いなよね。」 A組の教室の入り口の壁に寄りかかるようにして立っていた、未知の刃友、雉宮乙葉は言った。 「う、キジっちゃん。別に、ちょっとひねっただけだもん。」 「でも、歩くのも辛いくらい痛いんでしょ。ほら、寮まで連れてってあげるから。」 ごねる未知を説得して、乙葉は未知をおんぶして歩き出した。校舎からでて、寮へと進んだ。枯葉が秋風に一枚、また一枚とさらわれていった。きっともうすぐ冬になる。未知が乙葉の肩越しに見た秋空に、飛行機雲。 「ねえねえ、キジっちゃん。ほら、あそこ、飛行機雲。」 「ああ。」 「んー、きれいだね。」 「ん。」 「ああ、とか、ん、とか反応薄いよキジっちゃん。」 「うん。」 「あーあ、キジっちゃんがこんなドライな人だとは思わなかったよ。」 未知は不満そうに言った。 「なんなのさ。私はね未知が足怪我しちゃったことで頭がいっぱいなんだよ。」 「な、何言ってんの。」 予想外の乙葉の反応に、未知は驚いた。と、同時に、それほどに自分の事を心配してくれていることに心を揺さぶられた。 「明日からしばらく星奪り休まなきゃとか、歩けないとなるとキミがいろいろ不便するだろうとか。」 「キジっちゃんて、よく分からないよ。」 +++ そうして、未知の部屋に到着した。鍵を開けて中に入った。未知のルームメイトはまだ帰ってきていないようだ。 「キジっちゃん、あの座布団のとこに座らして。」 「はいはい。」 乙葉はしゃがんで、未知を抱えていた手を離し、言われた座布団のところへ未知を座らせた。 「よいしょと。これでいいかな。」 「うん。」 「…」 「…」 「あのさ、手を放してくれないと私、立てないんだけど。」 「…だけ。」 「へ?」 「もう少しだけここにいて。」 彼女はいつも唐突だと乙葉は思った。自分の首にまわされた腕は解かれそうにもなかった。 「わ、わかったよ。少しだけだからね。」 そう答えて、乙葉は未知に背中を貸した。未知に聞こえてしまうのではないかと心配になるくらい、乙葉の心臓は高鳴った。無言の数分間が続いたのち、未知は腕をほどいた。 「ん、ありがと。」 「もういいのかな。」 「うん。」 乙葉はカバンの中から何やら取り出して、机の上に置いた。 「それと、シップ机の上に置いとくから。使うと良いよ。」 「ありがとう。そだ、あとね、タンスから服とってもらっていいかな。」 乙葉は立ち上がってタンスを開けた。 「これでいいかな。」 「うん。」 「ほかに何かしてほしいことはある?」 「んー、じゃね、キスして。」 「はい?キ、キミね、いきなりそんな…」 「だってキジっちゃんが言ったんじゃん。それに、いきなり言っちゃダメなの?」 「いや、私はね、キミが足怪我してて歩けないからそれで…」 「キジっちゃん発言には責任持とうよ。」 「う…わかったよ。1回だけだからね。」 しれっと唐突な要求を突きつける未知に対し、乙葉はだれの目にも明らかなくらい赤面していた。先ほどから同じところに座っている未知が両腕を広げている。 「ほら、キジっちゃん、早く。ルームメイトの子、帰ってきちゃうよ。」 未知の要求に応えたい自分と踏み出す勇気のない自分の間で揺れる雉宮乙葉。でも、自分のために広げられた両腕に誘われるように、乙葉は未知に近づいた。 未知の腕をひいて、その体を引き寄せて、唇と唇が触れ合う。 ほんの一瞬だけ。 でも、確かな一瞬。 乙葉は勢いよく立ちあがり、足早に扉へと向かった。 「じゃあね。」 目も合わせられない。 「キジっちゃん。」 未知に呼びとめられて、振り返る乙葉。 「ありがとね。」 満面の笑みで未知は言った。 今、自分の目の前で満面の笑みを浮かべる彼女と自分はキスしていたのだと思うと、どうしようもなく恥ずかしくなり、乙葉は視線を未知から外して、未知に背を向けた。 「お、お大事に。」 挙動不審のまま乙葉は未知の部屋を出て行った。乙葉の心臓はまだ高鳴っていた。全く、心臓に悪い。 でも、キミの笑顔が見られるなら、私は何だってするよ。 |