ナカヌナラ…
続きの世界は、暗闇の中で。
きっと、よく見えないくらいが丁度いい。
暗闇の中で、必死になって手探りで求め合うぐらいが丁度いい。
暗闇の中で、そうして自分に触れるその人を想って、必要とされている安心感を感じるぐらいが丁度いい。
二人の唇が離れる時、夕歩が綾那の唇を小さく舐めた。
「脱ごうか?」
夕歩が濡れた唇で囁いた。
「夕歩はそのままでいい。」
一度だけでは満足できず、再び唇を重ねた。
お互いを求めあうように舌を絡めながら、綾那は夕歩の着ているパジャマのボタンを外し始めた。
歯列の裏側をゆっくりと夕歩に舌先で舐められ、思わず声が漏れる。
だらしなく開いた口から絡めた舌を伝って、夕歩の口内に涎が流れる。
綾那の手が夕歩の胸に触れると、息を飲むのと一緒にその液体も嚥下された。
喉に焼けつくような熱さを感じながら。
それから夕歩のはだけた胸元に、綾那が唇を寄せて軽く吸った。
「…ん…っ」
小さく声が漏れた。
徐々に強く吸い上げるのに合わせて、声も高くなっていく。
唇を離したそこは、皮膚の薄いせいか、うっすらと鬱血した跡が残った。
少し冷たい手で、そこに触れる。
「ごめん…跡残りそう。」
「いいよべつに…」
綾那の声がいつもと変わらないせいか、濡れた夕歩の声が余計に濡れて聞こえた。
「それよりも…」
夕歩が綾那の腕をつかんで、胸元に顔を埋める綾那の顔を引き寄せた。
微かに震える手が綾那の顔に触れる。
「これは取ろうよ。」
メガネを外した。
「んっ。」
突然クリアになる視界。
赤みの増した頬、少し潤んだ瞳、薄く開いた濡れた唇、その他全てを綾那の目は鮮明に捉えた。
見とれるなという方が無理である。
「あ…ごめん。もしかしてすごい目悪い?全然見えなくなっちゃった?」
見つめられることに気まずくなった夕歩は視線をそらしながら口を開いた。
「ううん。むしろよく見えるようになった。」
「?」
綾那のメガネの事情を知らない夕歩には、意味がよく分からなかった。
「このメガネはね、よく見えないようにわざと度を狂わせてあるの。」
綾那の手がメガネを持つ夕歩の手に重ねられる。
その手をベッドの外まで引っ張って、夕歩の手を開かせた。
操られるままに夕歩の手からメガネの落ちる音が、ベッドの外で小さく響いた。
そのままお互いの指を絡ませるようにして手を繋いだ。
「なん…んんっ…」
なんで、と聞こうとした夕歩の口は綾那の口に塞がれた。
「今度教えてあげる。」
綾那は夕歩の胸に触れた。
「…っ!」
綾那の手が夕歩の胸を優しく撫でる。
繰り返さえる単調な動作の中で、快感はゆっくりと高められていく。
その度に漏れてしまいそうになる声を、、唇を引き結んで堪えた。
綾那は別に我慢しなくて良いのにと思ったが、そんなことを言ったところで夕歩が折れるとは思えなかった。
その代わりにと、再び胸に唇を寄せた。
綾那の黒髪が肌に触れるその感覚で、何かされるなと夕歩は身構えた。
その瞬間、夕歩は左胸の頂にピリッと痛みのような快感が走るのを感じた。
「ん!っぁあっ!」
綾那がそこを甘噛みした。
夕歩が声をあげながらきつく手を握るので、痛くしてしまったかなと綾那は噛みつくのを止めた。
代わりに、舌でゆっくりと舐めた。
「う…あぁ…っ」
先ほどと変わらず声をあげる夕歩を見て、やっぱり気持ち良かったのかと綾那は今度は右の頂に噛みついた。
「やっ!…あ…っ」
自分の体ではないので、痛いのか気持ちいいのかどうか分からない。
もっとも、自分を欲情させる声が聴けるなら、どちらでも構わないとさえ思った。
それでも、喘ぎ声に混ざって時折自分の名前を絞り出すような声で呼ばれると、快感を与えてあげたい気持ちが勝るから不思議だ。
「ひ…ぁっ」
袖の中に隠れてしまった夕歩の手が綾那の肩に触れる。
それに気づいた綾那が顔をあげれば、肩まですっかりはだけた夕歩が恍惚とした表情で横たわっていた。
心臓が早鐘を打つ。
気持ちが加速する。
「夕歩…」
耳元で囁いて、体に腕を回して抱き起こした。
首筋に唇を寄せる。
「んっ…綾那ぁ…」
夕歩の声もやたら耳に近い。
袖に隠れる手が、ベッドの上に滑り落ちる。
中途半端に脱げたシャツの裾をつかんで引っ張ると、抵抗もなく夕歩の腕から滑り落ちて脱げた。
夕歩の体をベッドに寝かせてから、肩から指先へと優しく撫でた。
「ん…っ」
肩が小さく跳ねる。
「綾那…」
夕歩は妖しく囁きながら、綾那の首に腕を回して引き寄せて、キスをした。
それでも足りず、舌を絡めた。
「っう…あ…」
綾那の足を夕歩の足が擦り上げる。
二人の間で微かな水音が響く。
甘みなんて無いはずのその液体を甘く感じるのは、感覚のおかしくなってきている証拠。
「ふ…ぁ…っ」
突然のことで成す術もなく蹂躙された綾那の口内からは、水音と喘ぎ声が漏れ聞こえた。
それに満足した夕歩がようやく口を離した。
綾那の口の端から夕歩の口元に糸を引いた涎を、綾那が夕歩の唇に重ねた自分の唇で吸い上げた。
体を起して、夕歩のはいていたズボンと下着に手をかけて器用に脱がせた。
「夕歩。」
顔に触れて夕歩の目を覗き込む。
「ここから先になったら、夕歩に泣かれても、私…やめられる自信ないからね。」
綾那の表情にはその言葉に現実味を与えるものがあった。
それでも、現在進行形で体を撫でる手は優しく、夕歩の思考を混乱させた。
「大丈夫。それに、綾那…今、私が嫌って言ったってやめそうにない顔してるよ。」
「うん。嫌だって言われても、何とかうん、て言わせるつもりでいた。」
初めに綾那のことを天地の怒れる虎だとかなんだとか言った人は、なかなか鋭いものだと思った。
確かにこの人は虎といえよう。
「ならわざわざ私に確認取らなくて良いんじゃない。」
「それはまずいでしょ。嫌なら嫌ではっきり言っていいし、痛かったら痛いって言って良いわよ。」
綾那の手が夕歩の長い前髪をを撫でる。
「それなら、そうじゃなくなるまで待つし、そうでないようにしてあげるから。…ね。」
ね、と言いながら優しく触れる綾那に不意打ちをされた夕歩は、綾那の体を引き寄せて綾那の肩に額を寄せた。
少し前には泣かれてもやめる自信ないなどと言っていた人が、今になって突然そんな言葉を呟くとは反則だ。
「…うん。ありがと…さっきは自信ないなんて言ってたのにね。」
綾那の体が夕歩の腕からすり抜けて行く。
綾那は夕歩の足をつかんで膝を立たせた。
「自信が無いだけでそうしないとは言ってないわよ。」
夕歩の閉じた足の膝に綾那が手をかけた。
「強引にってのじゃなくて、過程を大事にしたいでしょ。」
足でもどこでも綾那の体に触れられる場所全て、敏感に快感を感じ取るようになっていた。
自分にだいぶ余裕のないのを分かっていた。
「そうだね。続けていいよ…」
いいよ、などと言ったが実際、膝をつかむ綾那の手に足を開かされた時には、相手が綾那でも激しい羞恥心に襲われた。
羞恥のあまり、目を瞑った。
目を瞑った先では、綾那の手が夕歩の足を膝から局部に向かって撫でた。
夕歩の口からは大きく息が漏れる。
しかし、その手は夕歩の疼く下半身には触れず太股の内側を繰り返し撫でるだけだった。
夕歩にとっては見られているというだけでも体は疼くというのに、優しく触れられる感覚に余計に疼いた。
ましてやそこにあと少しで届くところまで触れておいて、結局触れられないもどかしさが夕歩の感情を高ぶらせた。
「ん…」
綾那が夕歩の足にゆっくりと舌を這わせる。
焦らされることで快感を貪欲に求め彷徨う体は、その感触に必要以上の快感を感じ取った。
足が不規則にガクガクと揺れた。
暗闇の中でも綾那にしっかりと見て分かるほどに濡れたそこは、相変わらず快感を与えられる度にその液体をあふれさせた。
屈んだ綾那の肩から滑り落ちた髪が、そこをかすめる。
不意に腰が揺れる。
綾那の手で夕歩のすっかり濡れたそこが開かれて、顔を埋めた綾那が一番敏感な部分を舌で舐めた。
「うっ!!あっ…ぁ」
大きく声をあげた。
ヤバいと思った瞬間にはもう体は大きく仰け反っていた。
「っ!!ん、あああぁっっ――!」
全身を貫く快感に体が震える。
綾那の舌の触れているところも小さく痙攣している。
絶頂と言うに相応しい快感の最高潮。
自分の声がどこか遠くで聞こえているかのような錯覚を引き起こす。
夕歩が果てたのにも構わずに、綾那はそこに舌を這わせた。
「…だ、ダメ…っ」
綾那は顔をあげて夕歩を見た。
苦悶の表情で、激しく呼吸している。
舌で触れる代わりに今度は、ビクンビクンと痙攣してはねっとりとした液体を垂らす入口に指で触れた。
「ダメ?こんなに濡れてるけど。」
綾那はその液体を指に絡めるようにして触れた。
「っや!…おかしく、なり…そ…」
「今なら良い声でないてくれそうだね。」
綾那の突き立てた中指が、抵抗もなく夕歩の中に入っていく。
「あぁっ…!」
夕歩の中が緩く蠢いた。
「これじゃ物足りないんじゃない?」
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