冗談も言えない
「順は生命線長いんだね。」
「そーかな。」
先ほどからあたしの手をつかんでじっと見ていた夕歩が、ようやく口を開いた。
ああ、手相見てたんだ。
「かなり長い方だと思うよ。少なくとも私よりはずっと長いし。順は長生きするよ。私は体がこんなだし、きっと私の方が先にいなくなるね。」
傾きかけた太陽のオレンジ色の光が、夕歩に当たっている。
うつむいている夕歩の顔に影を作った。
「何言ってんの。」
たぶん、今あたしは笑えていない。
愛想笑いさえ作れない。
「でも、そうなれば、順がいなくなって悲しむことないから良いかな。」
「い、嫌よ、そんなの。そしたら、あたしが悲しいじゃん。」
冗談の1つも言えなかった。
なぜかものすごく不安になった。
ほんの僅かにほほ笑む夕歩の顔。その顔にかかる長い前髪。
夕日が差し込む薄暗い病室の中、目に映るすべてのものが、これから訪れる闇に呑まれてしまいそうで。
「いつか」ではなく
今すぐにでも
この子があたしの目の前から消えてしまいそうで。
「順は私がいなくなったら悲しいんだ?」
「当たり前じゃない。」
「私がいなくなったらやだ?」
「やだ。」
「じゃあ、私のこと好き?」
「えっ。ん、あ、す、 好きに決まってるじゃない。」
普段なら何でもないようなセリフを言うことに、なにあたしは照れてるんだろう。
「今日はすごい素直だね。」
「夕歩が変なこと言うからでしょ。」
でも、あたしの左手を包む夕歩の両の手は温かかった。
END
夕歩がいなくなることを考えたら、冗談なんか言えなくなってしまうくらいじゅんじゅんは夕歩のことを大切に思ってると良い。
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