真夜中の計画―3―
「っはぁ、はぁ…ん、あっ…はぁ…」
「耳、ホント弱いね。」
耳元で小さく囁かれたにもかかわらず、夕歩にはその声が体を揺さぶるほど大きく響いて聞こえた。
「でも、…耳舐められてるだけでいっちゃったら、勿体なくない?」
「ひ、んぁ…」
夕歩の涙が首筋を伝って、鎖骨のくぼみの中に溜まっていた。
夕歩の鎖骨にキスをして、涙を吸い上げた。
順の肩をつかむ手が、不規則に震えた。
夕歩の中が順の指をさらに奥へ奥へと誘い込むようにひくひくと動く。
「っう、ぁっ…ひあっ!」
そこで、順は再び夕歩に刺激を与えるのを止めた。
「はぁっ…、ゆう…ほ…」
快感に体を震わせ、声を上げる夕歩をもっと見ていたい。
順もまた夕歩とは別の快感に溺れていた。
こんな風にして、夕歩が果ててしまいそうになるのを、中に入れた指で感じては、順は夕歩に快感を与えるのを止めた。
それがどれほど繰り返されたことだろう。
夕歩は何度絶頂を迎えそうになっただろう。
夕歩が絶頂を迎えそうになるのと同じ回数繰り返された、行為の停止。
「あ、…っ…ぁ…っはぁ…ん」
快感にも耐えられないが、想いを遂げる一歩手前でそれ以上を与えてもらえない欲求不満にも耐えられなかった。
「ああっ…、んっ…はぁ…」
夕歩の身体は人形のようにぐったりとして順の身体にもたれかかっている。
胸を上下させて激しく呼吸しているのが、順の身体に伝わった。
「夕歩…」
乱れきった夕歩を前に、順も余裕がなくなってきていた。
それから、順は何もしなかった。
指を動かすことは勿論、耳を舐めることも、身体を撫でることも、囁きかけることも何もしなかった。
もっとも夕歩にしてみれば、限界ぎりぎりの状態から上にも下にも開放されない状態が続いていた。
「じゅ…ん、っあ…うぁ…」
静寂の中、夕歩の激しい呼吸と泣き声のような喘ぎ声だけが響いた。
もはや順を求めようにも、渇ききった喉はまともに声を出すことができなくなっていた。
喘ぎ声はこんなにも出てくるというのに。
しかし、何もしていないのに自分の指を痛いくらいに締めつけ続ける感覚に、順は自分の求められていることを分かっていた。
身体はやはり正直なのだ。
「夕歩、……もう、いいかな…」
さすがにそろそろ夕歩の体力の限界だろう。
順は夕歩の中に入れている指を折り曲げて、ゆっくりと動かした。
「っ…!」
声にもならない喘ぎ声が漏れて、夕歩の身体が大きく仰け反った。
「んぁ!はっ…ぁあ!じゅ…ん、…」
夕歩の身体が快感に大きく震えた。
徐々に夕歩の視界は白んでいった。
「夕歩…あ………る…」
順が何事かを耳元で囁いたが、快感が聴覚を奪ってしまっていた。
順は夕歩の耳を舐め上げた。
夕歩の中がびくんと順の指を締めつける。
夕歩の視界は真っ白になった。
+++
夕歩は目の前が真っ白になるのを再び感じた。
それは太陽の光だった。
目を開けて、もう朝なのだと気づく。
あの後そのまま眠ってしまったのだ。
順の腕が自分の背中に回されている。
身体を起こしかけたが、眠ったままの順の腕はどうやらほどけそうにないと悟った夕歩は、順の腕の中でもう一度眠りについた。
その後、順の声で夕歩は再び目覚めた。
「っ…」
おはようと言おうと思ったが、声が出ない。
昨日も結局随分と鳴かされてしまった。
「今日は静馬の家に帰るんでしょ。早く着替えなね。もう朝ご飯できるよ。」
居間では順の父が新聞を読んでいた。
「おはようございます。」
夕歩が順の父に会っての第一声として、不自然な言葉ではないのだが、その声不自然なほどひどく枯れていた。
全ての平仮名に濁点が付いているかのようだった。
「…ああ、おはよう。一体、その声は…」
夕歩の声に驚いた順の父は、目を丸くして夕歩を見た。
「あ、いえなんでもないんです。」
「順、お嬢さんにお前なんかしたんじゃないだろうな?」
その時、台所にいた順が食器をひっくり返したらしい音が響いた。
まったく、これでは何かしたと言っているようなものである。
勿論、質問を投げかけた順の父には一切の他意はなく、「大丈夫か?気をつけろよ」と言った後、再び新聞を読み始めた。
終わる
設定としては、夕歩が退院して少したって、久我家に泊まりに来ましたな感じです。
携帯サイト登場前に書いたモノ。
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