真夜中の計画―1―
「夕歩はね、いつもいくのが早いと思う。」
夕歩の隣の布団に横になった順が、突然そんなことを言い出した。
先ほど電気を消したばかりで、まだ暗闇に目が慣れていない。
ついさっきまで明日の朝ご飯の話をしていたところに、そんな発言をされたものだから「どこへ?」などと聞き返しそうになった。
しかし、そう聞き返すより早く順が再び口を開いた。
「昨日もさ、指入れたらすぐだったじゃん。」
「あ、そっち…」
順が不思議そうな顔をしたので、「なんでもない。」と夕歩は流した。
「とにかく、あたしの超絶技巧はそこからだっていうのに夕歩は…」
「うるさいな…」
暗闇のおかげでどうせ見えやしないのだが、夕歩は赤くなった顔を隠すために布団を引き上げた。
「まあ、二ラウンド目に突入するっていう手もあるけど、夕歩にそんなに無理させらんないからね。まだ病み上がりだし。」
昨日も人を散々な状態にさせておきながら、一応は自分の身体のことを気遣ってくれているらしい順の声をなんとも言えない複雑な気持ちで夕歩は聞いていた。
結局その後、「だから今日は頑張ってみようよ」などと言いながら布団にもぐりこんできた順に、迫られ押し切られる夕歩であった。
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「…ん、…ぁ」
「昨日と違って今日は我慢できたんだね。えらいえらい。」
そういって順は夕歩の頭を撫でた。
もっともそれは夕歩の努力によるものではなかった。
いつもなら夕歩が息も絶え絶えに声が掠れるまで攻め立てる順が、今回はそれをほどほどにしたためであった。
しかし、それでも夕歩の身体に熱を与えるのに十分だった。
仰向けに横たわる夕歩に覆いかぶさった順は、夕歩の中に入れた指を動かすこともなくそのままへらへらと笑っていた。
「何?」
「何って、何?」
いつもなら容赦なくやりたい放題にする順が、なぜかここにきて大人しいのを夕歩は訝しがった。
実際、事に及ぶ前は超絶技巧がどうのと言っていたのだから。
「何って、何?」という順の言葉は、もちろん哲学的な答えを要求しているわけではない。こんな時に哲学はいらない。
夕歩の「何?」の内容を問うているのだ。
しかし、夕歩にしてみればそれに答えることは自爆ともいえる。
「なんで何にもしないのよ。…好きなようにしたらいいじゃない。」
虚ろな目で暗い天井を見ながら夕歩は呟いた。
それが罠と知りながらも踏み出すのは、遠回りをした少し歪んだ愛情表現。
順は夕歩の腕を自分の首に回してから、自分の腕で夕歩の身体を抱えて起こした。
「うん、好きにする。だから、超絶技巧はまた今度。」
天井を見つめていた夕歩の視線を自分の方に向かせ、キスをした。
渇いた夕歩の唇を、ゆっくりと舐めてから唇を離し、再び口を開いた。
「何のためにわざわざ夕歩がしゃべれるだけの余裕を残したと思ってるの?まだまだ、これからだよ。」
中に入れた指は動かさないままだったが、反対の手で夕歩の背中を撫でた。
どこに触れれば夕歩が感じるのか、順はもうすっかり把握していた。
「ん、順……」
もはや夕歩の声に構わず、順は夕歩の胸の先端を啄ばむ。
「ひ、っぁ…」
その声とともに、夕歩の中に入れられている順の指が締めつけられた。
いつだって身体は正直だ。
順は夕歩の身体を執拗に舐めまわした。
「っあ、…う…」
動かされないことで、かえって順の指が入れられていることを意識させられてしまう。
そこから溢れ出た液体が、雫の滴るほどに順の手を濡らしていた。
夕歩の身体はすっかり敏感になっていた。
中に入れられた指、肩にかかる長い髪、順が触れる場所その全てから快感を感じるほどであった。
「っは…っあ、じゅ…ん」
快感に溺れ、力の抜けて行く夕歩は順の首にしがみついた。
「ね、ぇ…もう……」
「まだまだだめ。」
激しく呼吸をする中で途切れ途切れ呟いた夕歩の言葉を、順は即答で一蹴した。
求められると、自分の方が負けてしまいそうだと感じた順は、夕歩に何もしゃべらせまいと、その唇に自分の唇を重ねてふさいだ。
「んっ、んん…」
息が詰まる。
順は夕歩の舌をからめとって、そのまま自分の舌を夕歩の口の中で動かした。
どちらのものとも分からない涎が夕歩の首筋に流れて行ったのを、順はゆっくりと舐めとった。
「っん、あぁ…!」
熱くねっとりとした感触に、夕歩は声を上げた。
自分はいつの間に順にここまで溺れていたのだろう。
(つづく)
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