人の夢




「…と…の恋は、…く…わりを…げた。」
「だー!うっさい。さっきから何なんだお前は!ゲームの邪魔だ!」
「何って、ゲームするから大人しく本でも読んでろ、って言ったのは綾那じゃん。」
「なんで音読するんだよ。しかも、お前平仮名しか読んでないだろ。
でも、なんか恋だけ、漢字読めてたっぽいし。」
「しょうがないじゃん、読めないんだから。」
「じゃあ、順にでも読んでもらえ。」
「さっき、お風呂入りに行ったよ。」
「ちっ。こんな時に、あいつは覗きか。」

まったく、いなくていい時には、どこからともなく現れてくるのに。

「ねーえー、読んでってばぁ。」
「あー、分かった。分かったから抱きつ くな、暑苦しい。」

はあ…

「じゃあ、こっから読んで。」
「大輔と美晴の恋は、儚く終わりを告げた。そして、…」

やる気のなさ全開の私の、抑揚のない声。

「えぇーーーー!」

そして、クロの突然の叫び声。

「何だ?騒々しい!」

しかも、この本も何なんだ?
私のじゃないぞ。

「おかしいよ!」
「何がだ。いきなり叫びだして、おかしいのはお前の頭だろ!」
「人に夢と書いて、なんでハカナイって読むの?」


なんだか物事の本質に迫るような問いだ。


「だから、人の夢ってのはそういうもんなのよ。」


人が夢を見ることなど、儚いのだ。
すぐに消えて行ってしまうんだ。


「何言ってんの!人の夢はハカナクなんかないよ!
綾那の夢はそんなもんなの!ハカナクていいの?」







…じゃあ、どうしたらいい…








「あなたのあたしへの愛はそんなものだったの!」

……

「って、何の話だぁーーー!」

思わず全力パンチを繰り出してしまった。

「いたたぁ。冗談冗談。もう、綾那はすぐ怒るんだから。
綾那の夢が叶うまでずっと、あたしが協力すっかんね。」




…別に、夢とかそんなの…





「ちゃんとゆかりの嫁にしてあげるかんね。」
「ほほう、綾那の夢は、染谷のお嫁さんかー。
綾那もかわいいとこあんね。」


…………


「クロ。なら、今すぐ私の夢を叶えてもらおうか。
お前と隣の淫魔が私の前から永久に消え去るという。」
「「おや?」」
「二人とも消えろ!!!」

渾身の釘バットフルスイング。


その日、久我・無道の部屋の窓から、ホームランが2発飛んだという。




END

どこからともなく現る淫魔


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