誠実な不誠実




…こっち向いて下さい。

切実に願うように呟かれたその言葉。
槙は何も答えずに制服のボタンを閉めた。
それから漸くゆかりの方を振り返った。

「ゆかりも早く、制服着なさいね。」

振り返った先でどうしてか泣き出しそうなゆかりの顔が見えた。
そんな顔しないでよという言葉を、そんな顔にさせているのは自分であるということに気づいて飲み込んだ。


泣きたいのは、私の方なのに。


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――――――――だって、いつでもゆかりのこと見てるもの。


いつか私に言ってくれたその言葉。
「いつでも」なんて、現実的にそれは無理な話。
それでも「いつでも…」などと言われると、嬉しくなってしまう自分がいる。
あまりに誠実なその人は、あまりに不誠実な言葉で私を喜ばせる。

不安な日々が続くならと、確かなものを体に求めたのがそもそもの間違い。
「その」先にある焦燥感を知っていたのなら、こんな選択肢は選ばなかった。
もう戻れないあの頃。
過去に戻ることができない以上、1つを選ぶことでもう2度と進めなくなる道がある。
この身体が1つでただ1つの人生しか歩めない以上、選択肢などいくらあっても進めるのはただ1本の道だけだというのに。

選択肢の多さを未来の可能性へと変えていけるのは、そこで正しい道を選ぶことのできる者だけ。
正しい選択肢を選ぶことのできない者はそこで世界を思い知らされ、そして淘汰されていく。

厳しいのではない。
正しいのだ。

不誠実な私達に世界を思い知らせる程度に、誠実な理なのだ。


END

リクエスト下さいました槙ゆかの同志に捧ぐ。
もっとイチャコラさせてもいい気がしたww
このお話の前にあたる18禁パートこそ書くべき気がした。
そのへんはいつか私の文章力が妄想力に追いついた時にでも…


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