light wright your right hand
その手を握った。
どうしようもない衝動が限界を超えれば、彼女は堪らなくなって手を伸ばす。
「なーに?どうかした?」
「どうもしてないです。」
「あ、そう。」
同じ方向を向いて並んで座る2人。
うつむく美穂子の方を向いた久と。
「ただ、安心するんです。貴女に触れていると。」
「ふーん。」
握った手を強く握り返されて、突然引き寄せられる。
それに反応した美穂子が顔をあげた時にはもう、久の両腕の中。
「う、上埜さん…?」
「…」
「…」
「うん、そうね。」
「へ?」
「確かに安心するわね。」
そう、いつだってそう。
触れることさえまともにできないでいる自分のかわりに、いつだってその距離を縮めてくれる人。
自分は手を伸ばすだけで良い。
その温度が、呼吸する度に僅かに上下する背中が、自分を支えるその両腕が、幻ではないのだと、偽りではないのだと、夢ではないのだと、今ここにいる意味を与える。
「ちょ、なんであなたは泣きそうになってるのよ。」
美穂子の口から泣きそうな声が漏れたところで久が驚いて、体を起こした。
「上埜さんも、私が涙もろいの知ってるじゃないですか…」
「私に触れてれば安心するんじゃなかったの?」
久が小さく息をつきながら呟いた。
「だから泣きそうなんです。」
「………」
久が両腕の中に再び美穂子を抱き寄せる。
「難儀ね…」
「上埜さんほどじゃありません。」
「そうね。」
久は小さく声をたてて笑った。
「よく分かってるじゃない。」
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