最初は、そう…ただ良く気のつく人なのだと、そう思っていた。
Chorus
Ensemble
届きそうで届かない、美術室の棚の一番上にある本。
必死に伸ばした私の手を越えて行く手があった。
「はい。」
その手は本取って、私に差し出した。
「……」
「あれ、この本じゃなかった?」
「いえ、…ありがとうございます……」
「どうかした?」
「その…先輩って、良く気のつく人だなって思って…」
「ええ、もちろん。」
ようやく本を受け取った私に笑顔を向けて、先輩は言った。
「だって、いつでもゆかりのこと見てるもの。」
最初は、そう…ただ良く気のつく人なのだと、そう思っていた。
周りに気の遣える人なのだと。
年上で、部長で。
誰にでも優しくて。
だからなのだと。
なのに、そんな風に言われたら、自分だけが特別なのかと勘違いしてしまいそうで…
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