綾那と夕歩が付き合っていることを、順は知らない。 二人はそのことを誰にも言わず、気付かれないようにしていた。 「うわあああぁぁぁ!!」 突然綾那が叫び声をあげた。 順が驚いて振り向くと、なぜか一人慌てふためく綾那がいた。 「どうしたの綾那?」 綾那の隣に立っている夕歩が尋ねた。 「…いや、なんでもない」 少しの間をおいてから、綾那が答えた。 記憶からすぐにでもこぼれ落ちて行くような、ありふれた日常。 snapshot 日も暮れた放課後の暗い帰り道を3人で歩いた。 「ねーえ、二人ともはーやーくー。」 数メートル先を歩く順が振り返って夕歩と綾那に言った。 なんとかいうテレビ番組がもうすぐ始まるとかで、急いでいるらしい。 「なら、お前だけさっさと帰ればいいだろ。」 「それはさぁ、なんか寂しいでしょ。」 そういいながら順は前を向いて再び歩き出す。 夕歩の手が綾那の制服の袖をつかむ。 綾那が夕歩の方へ顔を向けた時には、もう唇は重なっていた。 一瞬触れるだけで、夕歩はすぐに離れた。 「うわあああぁぁぁ!!」 すぐ目の前に順がいるのに。 「どうしたの綾那。」 夕歩は平然としている。 口元に笑みを浮かべてなんかいる。 「…いや、なんでもない。」 少しの間をおいてから、綾那が答えた。 記憶からすぐにでもこぼれ落ちて行くような、ありふれた日常。 そんな日常も、誰かの少しの優しさや愛情で忘れられない一瞬になる。 |