二人は付き合ってますよという前提で!



連続再生


一緒に星を奪ってくれるその人と、こうして2人きりで美術室にいる時間が、多分私は一番好きだと思う。
絵に集中するその人にとって私はもはや空気同然の存在だけれども、むしろそれが心地よい。
ただ見つめているだけ。
そうしてその人の一挙一動を心に刻んでは、心の中で繰り返す。

絵に集中するその人は、話しかけてもろくに返事を返してくれない。
むしろ、絵に集中するその人を会話などするとかえって話が暴走し、厄介なことになる。

ただ、絵を描くことに集中して無防備なその人の背中に、思いきり甘えてみたいと最近すごく思う。
二人きりでいる美術室ぐらいでしか、そんなことはできそうもないから。

ゆっくりと近づいて、背中に触れた。
その人に何の反応もなかったけれど。
首に腕を回して、抱きついてみた。
相変わらず無反応だけれど。

その人は両手でイーゼルを少し近づけて、ようやく口を開いた。

「ゆかり。」
「はい。」
「重いわ。」
「…」

………
気の利いたことの一つでもいってくれるのかと、一瞬でも期待した自分が馬鹿馬鹿しかった。

「…ごめんなさい」

耳元で小さく呟いてから、ゆっくりと離れた。
その背中が何となく名残惜しくて、肩に両手を乗せたままにしていた。
と、突然その両手をつかまれて、引き寄せられた。

「あっ…せ、先輩?」

これではさっきと同じ体勢だ。

「やっぱりこのままでいいわ。」
「えっ?でも、今…重いって…」
「このままの方が良い絵が描けそうだから。」

そう言って愛しいその人は筆を手にとって、再び絵を描き始めた。
その言葉が、私を意識して発せられたものなのか、絵に対する集中力の延長線上での発言なのか分からないけれど。

どちらでも構わない。

――このままの方が良い絵が描けそうだから

心の中で、繰り返す。

髪の毛一本一本も見分けられる距離感。

「先輩。」
「はい。」
「私、先輩のこういうところ…すごく好きです。」
「…」

うん、言っても聞こえてないって分かってる。

「ゆかり。」
「はい?」
「私も好きよ。」

物凄くさらりと言われた。
この人、今自分が何言ってるか分かってるのかなぁ?

END 

ゆか綾も良いけどゆか槙もね。
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