ガラスの階段   ―二段目にはもう踏み出していた―





「お、増田ちゃん。どーしたの?あたしがいなくて寂しかった?」
「あ、いや、その…あの…無道さん、ちょっといいかな?」
「ん、……ああ。」

話はこの日に戻る。


増田恵は廊下を少し歩いてから口を開いた。

「夕歩から電話だよ。私、部屋にいるから、じゃあ。」
「ああ、ありがとう。」

綾那に電話を差し出して恵は去って行った。
ありがとうと言いながら、綾那は笑った。

綾那が笑うのを見たのは、恵にとって2回目である。
1回目は、いつかの休み時間の騒がしい廊下で。
別に自分に笑いかけたのではなく、近くにいた夕歩にであるが。
恵もそれほど鋭いというわけではないが、いろいろなものを察していた。



「綾那にかわってほしいんだけど。」

夕歩が携帯を持っていない綾那と話をするには、誰かを介さなければならないわけではあるが、それなら綾那と同室の順を選ぶのが妥当である。
しかし、そうではなく自分を選んだということは、順に気づかれずに綾那と話をしたいのだろうと考えられた。

「順に気づかれないようにね。」

この一言で推察は確かなものになった。




「あー、もしもし。」
「あ、綾那。久しぶり。突然で悪いんだけど、どうしても綾那と話したいことがあって。」
「うん。」
「んーと、あのね…その、…」

音声だけのやりとりであるがゆえに、電話での沈黙は大変気まずいものである。

「いいよ。」
「へ?」
「会って聞く。今週の日曜にでも。大丈夫?」
「あ、うん…大丈夫だけど。」

綾那が夕歩に会いに病院に行くことは、2人の間で暗黙のうちに禁じられていた。
しかし、その暗黙は夕歩の沈黙に破られた。
順はこの前お見舞いに行ったばかりだったので、こちらも大丈夫だろうと思っていた。
実際には大丈夫ではなかったのだが。



+++
というわけで、想いの交錯する3人は北風の吹く病院の屋上で、時間と空間を共有することとなった。

「何かあったのは私じゃなくて、夕歩でしょ。」

沈黙を破ったその声は順に確信を与えた。
この声も聞き間違えるわけはない。
心の中でこの人ではないようにと、ずっと思い続けていたのだから。

「綾那ってたまに突然だよね。」
「そう?いきなり私に好きだって言ってきた時の夕歩の方が、よっぽど突然だと思うけど。」
「…そうだね。」

北風が吹いた。

「やっぱ屋上は寒いよ。戻ろ。話なら中で…」

白い布たちが舞い上がる。

「ううん。今話す。」

綾那の真正面に立つ夕歩。順にはその様子が足だけ見えた。
夕歩の両足のかかとが上がるのが見えた。


強く吹く北風に、高く舞い上がる白い帳。


綾那の首に両腕を回してキスをする夕歩が順に見えたのは、風の悪戯。
夕歩の唇は綾那の耳元へと向かい、何かをささやいた。
切なげな色をたたえた夕歩の目がゆっくりと伏せられた。
そして帳は下りて行く。



To be continued


まだ続きますよっと。
アップロード直後、「To be continued」をうっかり「END」にしてたwwww
誰も見てませんように…



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