それはガラスの階段だった。
上るたびに、足元で透き通った綺麗な音がした。
下りる時にでさえも、その綺麗な音は響いた。
そして今、これまで聞いたこともないような綺麗な音を立てながら、美しく砕け散って行った。

それはガラスの階段だった。



ガラスの階段



「お、増田ちゃん。どーしたの?あたしがいなくて寂しかった?」
「あ、いや、その…あの…無道さん、ちょっといいかな?」
「ん、……ああ。」

綾那はゲームとテレビの電源を切って、にやにや笑いながら自分を見ている順を一瞥してから部屋を出て行った。


綾那が帰ってくるなり、順は綾那にとりついて騒ぎ始めた。

「なになに?増田ちゃんが夜に綾那を呼び出しなんて!愛ですか?恋ですか??もー、そういうことなら早く報告してよねー!!!」
「そうだな、報告は早くしたほうが良かったな。」

……

「…は?」

自分で言っておきながらどうなのだという感じではあるが、順は綾那の思いもよらない反応に固まった。

「嘘だよ。」

アホか、と言われようやく先ほどのテンションを取り戻す。

「く、悔しいけど今のは一本取られたわ。」
「アホ。」





+++
順が病室を訪ねた時、夕歩は不在だった。
もともと、今日来るとは言っていなかったので、しょうがないのだが。
順は誰もいない病室で暫く待っていたが、戻ってくる気配はなかった。
病院という場所なので当たり前だが、非常に静かである。
病院や保健室でなじみのある、あの独特の匂いが鼻を突く。
そして、たった1人、病室の中で過ごす退屈を知る。
順の足は自然と病室の外へ向かった。
自由には歩いていけない夕歩は、この退屈をどうしているのだろうか。





屋上には乾いた風が吹いていた。
物干しざおに掛けられたシーツが、目の前の景色を遮るように幾重にも重なってはためいていた。
屋上より更に一段高いところ、屋上のドアがあるところの屋根に順は上った。
陽の光がものすごく近くに感じられた。
ふと、遠くの方で救急車のサイレンの音が聞こえた。
その音はだんだんと近づいてきた。
赤い回転灯を灯した救急車が、慌ただしく病院へと進入し、サイレンの音は止んだ。

再び訪れる真昼の静寂。


見上げた空に白い雲。
地上で慌ただしく過ごす人間が気づくことのないスピードで、しかし確実に流れて行く。形も変わる。



突然、屋上のドアの開く音がした。
思わず順は身体を伏せた。
手をついたコンクリートは、陽の光に当たっていたせいか温かかった。
2人分の足音が聞こえた。


「今日はありがとう。来てくれて嬉しかった。」

順の耳に不意に飛び込んできたその声は、聞き間違えるはずもない大切な人の声。
病室にいなかったのは、誰かに会っていたからだったのか。
夕歩の声はよく聞こえたが、もう1人の誰かの声は小さく曇っていてよく聞こえない。短く返事をしているだけのようだが。
順はゆっくりと物陰から顔をのぞかせた。
しかし、シーツの波が視界を邪魔し、夕歩ともう1人の誰かの姿は見えなかった。

「ねえ…」

……

風が止んだ。
陽の光の降り注ぐ音が聞こえそうなほどの、真昼の静寂。

あの夕歩が何かを言い淀むなんて珍しい。
夕歩の隣にいるのが誰なのか、順はますます気になった。

「なんかあった?」

沈黙の先に続けられた夕歩の言葉と布のはためく音がした。

「うん…」

もう1人の誰かの低くうなずく声が、順にも微かに聴こえた。

「どうしたの?」
「…で…」
「心配?何が?」
「…のこと…」

少しの間が開いてから、徐々に明瞭に聞こえ始めたその声が答えた。

「私のこと?なんで、そんな。」
「…好きだから…夕歩のことが好きだから。好きな人のことを心配したらいけない?」

乾いた風が、その声を鮮明に順の耳に運んだ。




To be continued  



続きます。続くとかまさかですねー。小出しにするとかいやらしいですねーww
しかも、なんつー終わり方www
夕歩の隣にいるのは一体誰なのか!皆さん予想してみましょう。
そして、じゅんじゅんのモヤモヤした感じを一緒に味わいましょう。



↑NOVEL↓   ↑HOME↓