sparkling



「槙。」
「はい、何ですか。」
「アンタ、25日も部室に来るの?」

副部長は、生徒会に提出した、施設利用の申請書を見ながら部長に尋ねた。

「はい。部室の掃除をしておこうと思って。」
「1人で?」
「ええ。もう冬休みですし、みんな実家に帰ったりすると思いますし。」
「なら、私も手伝うわよ。まだ25日には学校にいるし。」
「あ、部長。私も学校に残ってるので、お手伝いしますよ。」

と、そんな感じで、結局25日には8人の美術部員で、部室の掃除をすることになった。

「もー、部長!掃除するなら、1人でやろうとしないで、声かけてくれればいいのに。」
「でも、もう冬休みはいるし、クリスマスだしね。悪いと思って。実際、ほとんどの子は、実家に帰るし。」
「そうやって気を使うところが、先輩らしいですね。」
「ゆかりもホントは今日の朝に帰るって言ってたのに…」
「別に良いんです。朝帰るのも夜帰るのも変わりませんから。」

そっけなく呟く言葉の裏側に、ゆかりの優しさを見て、槙は「ありがと。」
と微笑みながら答えた。



「ん?」

壁際に置いてあった道具をどかして、床をを箒で掃いていたゆかりは、近くの棚の後ろ、壁との隙間に何かが落ちているのを見つけた。棚をずらして、手を伸ばして、その何かを取った。それは誰かのスケッチブックだった。表紙を開いた1ページ目に、鉛筆でデッサンされた、窓から見える風景が描かれていた。その絵を見ただけで、ゆかりにはすぐに、そのスケッチブックが誰のものか分かった。

「先輩。これ、先輩のじゃないですか?」
「ん?」

ゆかりから差し出されたスケッチブックを受け取り、槙はページをぱらぱらとめくった。

「あ、本当だ。これ、私のだわ。2年前につかってたスケッチブック。無くした
と思ってたのに。」
「棚の後ろに落ちてましたよ。」
「あら。ありがとう。わー、懐かしー。」

2年前の槙の見た景色が、そこには広がっていた。
2年前に見たもの、感じたものが、ページをめくるたびに1つ、また1つと思いだされた。

と、突然スケッチブックをめくる、槙の手が止まった。
そして、その目はゆかりを見つめた。

「な、なんですか?」

槙の視線に気づいて、ゆかりが尋ねた。
槙は目を細めて、微笑んだ。

「ゆかり、これあげる。」
「へ?」
「クリスマスプレゼント。今日25日だし。はい。」

スケッチブックを槙に差し出されて、ゆかりも反射的に受け取ってしまった。

「あ、え?いいんですか。」
「きっと、それ、あなたが持ってるべきよ。」



+++
槙のルームメイトは、既に実家に帰っていた。静かなる聖なる夜、静寂の室内に乾いたノック音が響いた。槙は読みかけの本を机の上に置いて、ドアへと歩み寄った。

「はい?」 

そこにいたのは、ゆかりだった。

「あ、今大丈夫ですか。」
「ええ。構わないわよ。」

槙はゆかりを部屋へと招き入れた。

「どうぞ。」
「あら。」

机に向かい合って座ったところで、ゆかりはケーキを差し出した。

「クリスマスですし、スケッチブックいただきましたし。」
「ありがとう。じゃあ、さっそくいただきます。」

槙はにこにこしながら、ケーキを食べ始めた。

「ゆかり、料理上手ねー。これならいいお嫁さんになれるわよ。」
「なんですかそれ。……で、先輩。」
「はい?」
「あの、今日いただいたスケッチブックのことなんですが、いつ描いたんですか、あれ。その、私と綾那の…」
「ああ、あれね。2年前、部室の窓から見たあなた達が、あまりにもかわいかったからね。あの絵、あの頃の私にしては上手く描けてるし、気に入ってるのよ。」
「良いんですか。その気に入っている絵を私にくれて。」
「何言ってるのよ、だからあなたにあげるんじゃない。」

槙のその言葉に、ゆかりははっとした。ああそうだ、この人はこういう人なんだと、改めて気付かされた。

「大切にしてあげてね。絵もだけど、それ以上に無道さんのこと。」
「お約束します。絵の方は。」

”絵の方は”を強調して、ゆかりは答えた。



+++
黒鉄はやては、ウキウキしながら刃友の部屋へと向かった。そして、その部屋の前を行ったり来たりしているゆかりを見つけた。

「ゆかりー!」

突然名前を大声で呼ばれて、ゆかりの肩が跳ねた。

「な、何よ。」
「入んないの?」
「…う…」

はやてはゆかりの手をつかんで、ドアを開けた。

「あ、ちょ…」
「あやなー。めりーくりすまーす!!」
「うっさい!!!今、大事なとこなんだ!!!!」

綾那はゲームの最中で、視線はテレビ画面から離さず、ドアの方には一瞥もくれなかった。

「はぁ…、あなたホント、ゲームしてばっかなのね。」

その声に、綾那の手が止まった。
ゆっくりとドアの方を見た。

まるで時が止まったように、綾那は動かなくなった。

不吉な感じのする音楽がテレビから流れ、画面にはGAME OVERの文字が点滅した。

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆかり…なんで…」
「槙先輩に作ったケーキが余ったから、持ってきたんだけど…」
「おほー、おいしそうですな!!これならゆかりはいい嫁になれそうですな。」

そう言われるのは、本日2度目である。

「つーか、なんでお前はゆかりと手つないでんだよ!!」

はやてがゆかりを部屋に引き入れるためにとった手が、未だに離れていなかった。もちろん、2人ともに特に意味はないが。

「ち、違うわよ、これはさっきこの子が…」

はやてよりも先に、ゆかりが弁解しようとした。しかし、途中で言葉に詰まった。部屋に入ろうか迷ってドアの前をうろうろしていたところ、手をひかれてきたのだとはいえない。

「あらやだ。嫉妬?嫉妬なの、綾那?どう思いますゆかりさん。」

そういいながら、はやてはゆかりにべたべたとくっついた。

「うごっ!」

そんなはやてに、ゆかりの鉄拳が炸裂した。

「じゃ、これ、そこにいるあなたのバカな刃友と一緒に食べなさい。」

ゆかりは綾那にケーキの乗ったお皿を渡して、背中を向けた。

「あ、ゆ、ゆかり。」
「何?」
「その、あ、ありがと…」
「別に。じゃあね。」

綾那は去っていくゆかりの後姿を見つめていた。突然、その視界が、はやての顔のどアップで遮られた。

「うわあぁぁ!!」

びっくりして綾那は思わず、はやての顔面をひっぱたいた。

「うう…痛い。ゆかりの背中を見つめる、綾那の幸せそうな顔を近くで見たかっただけなのに…」
「ったく。」

床に倒れているはやての襟をつかんで、綾那は部屋へと入って行った。



それぞれにそれぞれの聖なる夜は更けて行く。


END

本当はこういう話ではなかった。
槙ゆかの槙ゆかによる槙ゆかのための槙ゆかみたいな話だったww
ほら、ゆかりが槙先輩の部屋に行くし、ルームメイトいない設定だしww
あんな事やこんな事が…いえ、なんでもありません。
とにかく、めりーくりすまーす!!

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