「増田ちゃーん。いるー?」
「鍵開いてるから、入っていーよ。」
部屋の扉をノックしながら、声を上げた。
すぐに中から返事が返ってきた。
住人の1人足りないこの部屋。
ここにあの子がいないことなど分かっていながら、
心の隙間を埋めるために、
心の隙間を埋める“何か”を求めて、
あたしは
この部屋の扉を叩くんだ。
スキマカゼ
増田ちゃんはベッドの上の段で、寝ながら本を読んでいた。
あたしが部屋に来ると、大抵この子はそうしている。
夕歩がいなくなったこと、増田ちゃんはどう思ってるんだろう。
あたしは夕歩のベッドに仰向けに寝転がった。
何をするでもなく。
こんなことをしているから、逆に寂しくなるのかもしれない。
ふと気付いた。
あたしが布団の上に開いたままにしたりして、無造作に置いていた本が、
枕元にきちんと積み重ねられていることに。
よくよく思えば、この布団も、感じが少し違うような。
「ねえ、増田ちゃん。」
「ふえ?」
「もしかして、布団干した?」
「うん。」
「夕歩のも?」
「うん。だって、久我さん使うでしょ。
だから、久我さんがいつ来てもいいように。」
ベッドの上の段から聞こえる彼女の声は、優しさを帯びていた。
「それと…」
優しい声は続けて言った。
「それと、夕歩がいつ帰ってきてもいいように。」
あたしの心の隙間を、優しく温かい風が通り抜けた気がした。
「ねえ、増田ちゃん。また明日も来ていーい?」
「うん。」
「ん、ありがと。」
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