lean on



授業も終わり、生徒たちが三々五々帰って行く。

「全く、バカだな、お前は。」

綾那が順に言い放った。

「あーあ、なんでダメなのかなー?」
「当然だろ。」

順は大きな段ボール箱を抱えていた。
その中には、周囲の人から「いかがわしい」と非難される本が詰まっていた。
順の机の中、ロッカーの中に大量に詰め込まれていたそれらの本の存在がばれて、担任に持ち帰れと言われたのだ。



「はー、もう駄目。ほんっと重いわ、これ。」

剣待生寮まで来たところで、順は段ボールを地面に置いて、呟いた。

「自業自得だろ。あと少しなんだから、頑張れよ。」
「腕が痛いよー。」
「ったく、しょうがないな。ほら、鞄持ってやるから。」

綾那が順の肩から鞄を奪った。

「お、優しーね。」
「うるさい。早く行け。」

綾那が順の背中をどついた。

「あたた、はいはい。」

順は荷物か抱えて、歩きだした。

「はあ、あたし、手つりそう。」

両腕でやっと抱えられるほどの大きさの段ボール箱。
その中にいっぱいに詰められた本の重さに、順も限界が来ていた。

「ふらふらするなよ。気をつけろよ。」

寮内の階段を登る途中、ふらついている順の背中に、綾那は忠告した。

「あー、だいじょぶだいじょ…おわ!」

荷物を持っているため、順には足元がよく見えていなかった。そのため、階段を踏み外した。

あ、やばい。

順がそう思った時には、もう修正不可能なほど、体は後ろに傾いていた。
順の体が、重い段ボールを抱えたまま、階段を落ちて行く…

…と思われたが、何かが順の落下を遮った。傾いた順の身体が、何かにもたれかかった。自分をさえてくれるその何かに、順はものすごく安心した。自分が倒れずに済んだってこともあるけれど、それが綾那だってことに。




「お、重っ…」

順の耳元で、聞きなれた声が囁いた。
落ちかけた段ボールを支えようと、とっさに延ばした綾那の手が、順の手の上に重なる。

や、やばっ。
今度は違う意味でやばいよ。

こんなハプニングでも起こらなければ、綾那とこんな状態になることなんて、決してないだろう。順には、自分で自分の顔が赤くなっているのが分かった。

「気をつけろって言ったじゃない。ていうか、おま、自分で立てよ…お、重…」
「ごめん、立てそうにない。」

嘘をついた。
だって、もうこんなことないかもしれないじゃない…




「綾那?」

順がそんなことを思っていた時、綾那の背中のもっと後ろ、階段の下あたりから、声がした。綾那も順も、その声の主を、多分よく知っている。

やばい。

今度は順も綾那も同じことを思った。
この声はもしかして。
綾那は声のする方へ振り向いた。度の合わないメガネをかけていても、綾那にはそこにいるのが誰なのか分かった。途端に、綾那の体は、順を支える力を失った。

「あ、綾那!ちょ…」
「はっ…って、だあー!!」

順が呼びかけにハッとする綾那。しかし、2人の体はむなしく階段を落ちて行った。同時に、「もう少し、あのままで…」なんて思っていた順は、現実に落ちて行った。それも、綾那と一緒に落ちてくなんて、何と皮肉なことだろう。仰向けに倒れる2人の視界に、2人の人間の顔が映った。
ゆかりと夕歩。

「「……―」」

順と綾那は固まった。

「はあ…」

ゆかりが溜息をついた。

「順、何、この本は?」

夕歩があたりに散らばった本を見て、尋ねた。
階段から落ちた時に、段ボールから本が飛び出してしまっていた。

「あ、いや、これは…その…違うの、夕歩!」

順が慌てていろいろなことに、言い訳を言おうとした。

「何が違うのよ。」

夕歩に冷たくあしらわれた。

「ごめん、綾那。うちの馬鹿が。ゆかりも、ごめん。」

夕歩が綾那とゆかりに謝った。

「なんで私にも謝るのよ。」

夕歩の言いたいことも分かっていたが、ゆかりはそんなとこには気づかないふりをした。

「ん、なんとなく。」

ふふっと笑って夕歩は答えた。

「お前は、いい加減私の上からどかんか!」
「えー、もうちょっといいじゃ……いえ、なんでもありません…」

淫魔の本領を発揮しようと思った順に、夕歩と、そしてゆかりが鋭い視線を送った。順は急いで起き上がった。

「はあ…もう行きましょ。」
「そだね。」

夕歩とゆかりは去って行った。




あとに残されたのは、淫魔と天地の虎と床に散らばるいかがわしい本。階段の踊り場の窓から、傾いた太陽のオレンジ色の光が注ぐ。赤みを増す光のなか、散らばった本を段ボールに詰め直す、順と綾那。

「「はあ…」」

2人は同時に溜息をついた。それぞれにそれぞれの思いを込めた溜息。
そんな2人を、遠くの方でカラスが笑った。




END



順綾なんだか順夕なんだかゆか綾なんだか、なんなんだか…
実はね、じゅんじゅんは綾那に片思いなんだよ。
すっごい好きなんだけど、夕歩がいるし、
何より綾那にはゆかりがいることを知ってるから、
何もできないでいるのよ、って妄想。
そんな中で起きたハプニング。
実際、自分が転びそうになったところを、誰かが支えてくれたりしたら…
って想像してみよう。
ヤヴァくないww私もまだ少女の心を持っているようだ。

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